第163話
トーザを殺し、修羅場から脱出したカムではあったが、心の折れた彼女はもはやただの抜け殻となっていた。
彼女の頭の中にあったのは一つの思考。
ここにいてはいけない。
父の言葉に背いた自分、奪う為に奪ってしまった汚れた自分はこの草原にいる資格がないのだと、本気でそう思い込み、彼女はひたすらに東へと歩を進めた。
付き添おうとする鷹や馬を突き放して別れ、彼女は飲まず食わずで東に進み続けたのだ。
死のう。
草原の外で死のう。
取り憑かれたようにその考えだけが、彼女を支配していた。
だが十五の娘が飲まず食わずの徒歩で行くには、草原の地は広すぎた。
当然、草原の外に出る前、その道中で彼女は倒れてしまう。
あとはもう死ぬだけ、そのはずだった。
しかし何の因果だろうか。草原の外にある村からやってきた一人の行商人が鷹のライセンに導かれ、倒れていた彼女を発見する。
行商人は意識を失ったままの彼女を助け自分の村へと急いで連れ帰った。
それは奇しくも、草原の外へという意味では、彼女の願いを叶える形となっていた。
そして、これは彼女にとって大きな転機となった。
草原の外の世界、彼女を救った行商人と心優しき村の人々との出会いによって彼女は変わっていく。
時に訪れる試練も乗り越え彼女は成長していった。
救うために誰かを殺めてしまう事もあったが、それはもうかつての自己の為の復讐とは違う。
村々を襲う盗賊や魔物を退治し続ける日々。
そして二十一の時、彼女は壁越えの開拓団の噂を耳にする。
グレイランド。
かつてジバ族はブルヴァの草原に流れてくる前、この広大な灰の地の何処かで暮らしていたのだという。
ジバの者達が『太陽と黄金の平原』と呼ぶ民族の古き故郷。父ムーソンが語り、夢見た地。
それこそが彼女が壁の先に求めたモノであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます