第103話『ガドー』

 店内はまだ昼間とあってか客は少なかった。

 それでもいかにも柄の悪そうな男達の姿がぽつり、ぽつりと目につく。

 レグスは店主らしき大男の方まで一直線に歩みを進め、彼の前に金貨を一枚差し出すと不躾に尋ねる。

「グレイランドへの開拓団員の募集を聞いてこの国に来た。ローガ開拓団というのがこのサドゥダラの街で人集めをしているそうだが、何か知らないか?」

 金貨を衣服の内にしまいながら店主はレグスの頭の上から足の方までを一瞥し、店内に座っていたうちの一人を呼ぶ。

「ガドー、あんたの客だ」

 のそりと、それは動く。

 男だ。ハゲ頭の筋肉質な男。背丈は店主ほどではないが、それでもレグスよりはある。

 青い目、白い肌、典型的な青目人。

「……東黄人か」

 レグスの前に立つなり、男はそう言って溜め息を吐く。

「どこの出身だ?」

「ジラフィア」

 レグスは嘘の答えを返す。

「聞いた事ねぇな」

「東の辺境の国だ」

「ほう、東ねぇ。わざわざそんなところからこのベルフェンまでご苦労な事だが……」

「勘違いするな。生まれはジラフィアだが、もう何年も帰っていない」

「なるほど冒険者か」

「そんなところだ」

 ここでガドーは大声はだして笑いだす。

「ガッハハハ。臭せぇ、臭せぇな、おい。兄ちゃんよ、俺は冗談は好きだが、子連れの冒険者ってのは笑えねぇよ、ええ?」

 ファバの存在が彼には引っかかるらしい。

「気にするな。騎士も戦場に従者を連れ歩いているだろう」

「従者にしてもガキすぎる。それにお前わかってんのか? 開拓団って言っても畑耕しにいくんじゃねぇぞ」

「使える物はガキだろうと何だろうと使う主義でね。あんたこそわかっているのか? グレイランドが戦場ほど甘くないって事を」

「言ってくれるじゃねぇか。だけどよぉ、その細腕で剣が持てるのかい? かわいい東黄人の坊や」

「必要なら試してみるか?」

 一瞬、空気が止まった。その次の瞬間、青目人の男が腰にかけた剣を手に取り大声をあげる。

「じょっ!?」

 その途中で動きが止まる。いや、止められる。

 レグスの短剣がいつのまにかガドーの首もとに当てられていた。

「この距離ならそんな長物必要ない。こいつで十分だ」

 誰の目に見ても力量差は明らかだった。

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