第98話

「石を御した不死王に会えば、それがわかるという事か」

――東の人の王が今のあなたに会う事を望むとは思えない。果ての島にあるという王の宮殿に辿り着く事すら困難でしょうね。

「ではどうする」

――ノレヴァならあなたの力になってくれるかもしれない。ノレヴァは私達スティアの王、私よりもずっと物知りで、強い力をもっている。東の人の王に会う手段、あるいは石に対抗する術すらも彼なら何か……。

「どうすればお前達、古き精霊の王と会える」

――あなた達がグレイランドと呼ぶ地に、私達の国へと繋がる扉があるの。

「繋がる?」

――この大陸は私達が暮らしていくには穢れすぎたわ。だから皆、ノレヴァに導かれ異界へと逃れたの。

「何故お前はこの大陸に残った」

――私が生まれたのは戦いが終ってからよ。ノレヴァ達が築いた異界の国で生まれたの。そこは静かで平穏な場所だった。だけど、退屈な場所よ。穢れを嫌い恐れ、あんな狭い世界に引き篭もるなんて私には耐えられなかった。スティアは元始の時からこの大陸に暮らしてたのよ。私達がいるべき場所はあんな作り物の故郷なんかじゃないわ。

「お前は故郷を奪った人間そのものを憎んではいないのか?」

――そうね。最初はそうだったわ。でもそれは人間の事を何も知らなかったからよ。今は違う、リーシェのように善き者がいる事を私は知っている。

「……ノレヴァは、古き精霊の王は本当に俺に協力してくれるのか? お前が人を許したとしても、人の裏切りによって異界へと追われた精霊の王が同じとは限らない。それに石が魔人の器として俺を選んだのだというのなら、助けるよりも俺を殺してしまう方がお前達の為にもなるのではないか」

 薄情に思えるような事ではあるが、精霊の話の重みを考えれば当然考慮されるべきものだろう。

 自分が恐ろしき魔人になるかもしれない器というならば、その器を砕いてしまうのが手っ取り早く脅威を取り除く手段なのだ。

――馬鹿を言わないで。ノレヴァは必ず説得してみせる。私を信じてレグス。

 セセリナから伝わってくる強い思念。偽りなどあろうはずもない気持ち。それがどこから来るものなのか、レグスにはわからない。

「何故俺なんかの為にそこまでする」

――約束だからよ。

「俺は、ロカ家の人間は三度救われた。盟約はすでに果たされたはずだ」

――盟約なんて関係ないわ。これは私が大切な友達と交わした約束。

「友達……」

 セセリナから伝わってくる思念がより強固なものになっていく。



――あなたを守る。それが我が友リーシェと交わした違え難き約束。約束が果たされるその日まで、私はあなたと共にある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る