第77話

「ケルサスケントゥリア……、本気でそいつを使うつもりか!?」

 ボルマンの途惑い、その意味が、二人の成り行きを見守るファバにはわからない。

 剣はずっと使われてきたはずだ。出会った時からずっと。

 剣を『使う』、その意味がわからない。

「そうだ」

 ボルマンの問いに即答するレグス。

「だが、それは……」

「迷っている暇はない。安心しろ。こいつの力を使うのは何もこれが初めてというわけではない」

「しかし」

「行け!! ボルマン!! 俺はあんたを無事この地に連れきた。次はあんたがファバを村まで無事届ける番だ。それを報酬として、この仕事は仕舞いだ」

「だが」

「ごちゃごちゃうるせええぇえ!!」

 初めて聞いたレグスの激しい怒声。

「爺さん、時間切れだ。はやく行け」

 そしてその表情はぞっとするほど冷たい。

 この手の表情をファバは何度か見てきた、はずだった。

――違う。

 しかし、同じようであって、それは違った。

 少年の本能が言う。

 まるで別人だと。

「……来い、小僧!!」

 ボルマンはレグスを残し、この場から脱出する事を決意する。

「け、けど……」

 いつもとは、そして時折見せるのとも違う、レグスの表情、そして強敵に、ファバの判断が鈍る。

「ここにいても巻き添えを食らうだけぞ!!」

 ボルマンの言う通りだろう。

 ここにファバが残ったところで何の役にも立ちはしない。今さらにそれを自覚させられる。

「ちくしょう!!」

 また何も出来なかった。その事実が逃げるという決断に際して、否応無しに突きつけられるのだ。

「レグス、勝手にくたばんじゃねぇぞ!! あんたが約束したんだ!! 俺に剣を教えてくれると!! 守れよ!!」

「お前もな。死体に剣は教えてやれんぞ」

 レグスなりのファバの身を案じた台詞なのだろう。ボルマンはそんな彼に約束する。

「任せおけ、わしの身にかえても小僧は村まで届けてやる。礼をいうぞ、レグス」

「……はやく行け」

 ファバとボルマン、荷の回収もそこそこに惨めな逃亡を図る二人。

 影の手は逃すまいと二人に押し寄せる。

 が、レグスはそれを一手たりとも、二人に近付けさせない。

 次々と襲い掛かる影の手、それに対して悪霊は相変わらず魔法陣からこちらを見ているだけ。

 いや、正確には見ているだけではない。

 笑っていた。

 邪悪な愉悦に浸るように、悪霊は笑う。

「人間をなめるなよ……」

 レグスの黒き剣が鈍く光った。

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