第76話

「ボルマン!! 仕事はここまでだ!!」

 レグスの判断に、依頼者本人でもあるボルマンも同意する。

「止むを得まい。まさかこれほど強力な悪霊が住みついておったとは……、だが、どうやってここを抜ける。簡単に逃がしてはくれそうもないぞ」

 会話の間にも影の手は三人へと襲い掛かる。レグスが斬っても、斬っても、ボルマンが魔法で焼き払っても、手は魔法陣から無数に出現し続けていた。そして悪霊は結界の張られた魔法陣の中へ移動し、そこから防戦一方となった人間達の様を見つめている。

「あんたはファバを連れて先に村へ戻れ!!」

 レグスの言葉にファバは驚きの表情を浮かべ、ボルマンの顔は険しさを増す。

「殿をつとめるつもりか」

「大丈夫かよ、レグス!!」

「誰かがこの悪霊を抑えておかなくては共倒れだ」

 肉体的に老いのきた老人に、未熟な子供。

 そんな二人とレグス、三人一緒に戦いながらこの難敵から逃げ切るなど不可能に近い。

 現実的に判断すれば、二人をこの場から逃がすには、レグスが残るという判断が一番であろう。

「若いのに無理をするな。わしがやろう。どのみちこの老体がたもきとる。小僧を連れて村まで戻るなら、お前さんの方が適任だろう」

「残念だが、あんたではこいつは止められない」

 老いた魔術師と悪霊、魔法陣の力量差を冷静に判断するレグス。

「そう言うな。さっきはちょいと油断しただけよ。わしとて魔道に入って半世紀、その間、無駄に歳だけ食ってたわけではないわ」

「はっきり言おう、あんたがいたら邪魔になる」

「邪魔だと!? 虚勢ならばやめておけ蛇の仔よ。お前さんがどれだけ優れた戦士であろうと、こやつは一人でどうこうできる相手ではない」

 短い旅だったが、その間でもボルマンはレグスの強さの一端を見てきた。それでもなお、この悪霊を一人の人間がどうこう出来るとは彼には思えない。

「そうでもない。俺にはこれがあるからな」

 これとはレグスがいつも使っている剣の事だった。

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