第38話
「で、どうすんだよ。こんなとこ入って」
フードを頭に被ったまま汚れたローブを纏う大小二人の東黄人。旅を生業とする冒険者の格好など知れたものだが、それでもレグス達の格好はこのクガの赤帽子では目に付いてしまう事だろう。
中にいた人間達の視線が二人に集まる。
「なんだあれ」
「見ろよ、東黄人だ」
赤帽子の冒険者らしき者達が二人を見て何やら言っている。ある者はこそこそと、ある者はわざと聞こえるように。
人種の制限はない赤帽子ではあるが所属する人間の多くは青目系、さらにはここは東黄人差別の強いパネピア国ダナの街である。二人は歓迎されぬ存在に違いなかった。
「なぁ、レグス」
悪意ある視線に不安そうなファバ。
「相手にするな」
レグスはファバにそう言い、堂々と歩を進める。
受付らしき場所には何人かの青目人が並んでいたのだが、レグスはそこに並ぶのではなく右隅の誰も並んでいない場所、若い女の受付ではなく、気難しそうな老人が座るところに向かう。
「おい、あっちじゃ」
ファバが列に並ぶ青目人達の方を指して言うが、レグスは止まらない。
「俺達が用があるのはこっちだ」
目的の老人の前まで来ると、レグスは何か硬貨のような物を取り出しそれを老人の机に置く。そして彼は言った。
「協約に基づき助力願いたい」
老人が顔を上げレグスの顔を見る。
「協約ね……。それじゃあ、メダルの確認させてもらうよ」
レグスの置いた物を手に取りながら老人が言った。
「こいつぁ……」
硬貨らしき物の正体、それは三匹の蛇が描かれたメダルだった。蛇にはそれぞれ片目に色の違う宝石が埋められており、彼らの回りには文字らしきものが彫られている。
「本物かい?」
このメダルが持つ意味に、老人の表情が変わる。
疑い、軽蔑、恐れ、一種の緊張感が老人に芽生えていた。
「疑ってくれるならいくらでも調べてもらって構わない。が、こっちも無駄な時間はかけたくはない。ご老体には賢明な判断を期待しているのだが」
レグスの言葉にはどこか棘があった。
老人が溜め息を一つつき言う。
「くそめんどくせぇ。……で、何が欲しいんだ」
「マフの雪ウサギの耳と巣が欲しい。それとマルガ狼の牙もな」
レグスの要求は言葉通りを意味しない。
耳は情報を、巣は寝床、牙は武器を意味する隠語であった。
老人の表情がより険しくなる。
「あんたこの国の法はわかってんだろ」
声を殺しながら老人が言った。
ナヘル王の命によりパネピアでは国籍を問わず、東黄人の武器の売買は禁止されていた。貧民層である東黄人達の不満は常に燻っており、彼らの反乱を警戒したわけである。
そのうえ、異国の東黄人がパネピアに滞在する際には指定の街で滞在許可証を発行する必要があり、武器売買の禁止についても当然その時に説明される事になる。
レグス達もパネピア入国時に訪れた最南端の街レザールで滞在許可証を発行された際にその説明は受けていた。
「だからこそ力を貸して欲しいのだ」
「たっく、何でわざわざこの街で、……外に出りゃいくらでもその機会はあるだろ」
パネピア国外に出れば武器の売買など簡単に行える。ダナの街から国境までそう日にちはかからない。
老人の言う事にも一理はあった。
「そう言うな、こっちも至急の用だ。それにこの街だからこそ、手に入る物もある」
「とにかくここじゃなんだ、奥の部屋で話そう」
老人は自身の背後にある扉を指差し、言った。
あまり人に聞かれたくない話なのはレグスも同じだ。拒む理由はない。
「ああ、そうしてくれると助かる」
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