第37話

「ここだ」

 二人がやってきたのは二階建ての石造りの建物の前であった。

 建物の入り口の上部や、前には大きな看板が出ており、名らしきものがでかでかと書かれている。が、学のないファバにはその字が読めない。

 恐らくユロア語、つまりはフリアの地で広く使われている青語で書かれているのであろうという事ぐらいは彼にもわかるのだが、それ以上の事は理解出来なかった。

「でけぇ!!、いったい何の店だ」

「店? 店とは少し違うな」

「え、じゃあ何の?」

「ギルドだ」

「ギルド?」

「共存共栄を目的とした人の集まりのようなものだ。ギルドと言ってもその種は様々あるが、俺達のような者が必要とするとなると限られる。……いわゆる冒険者ギルドというやつだ」

 冒険者ギルドは大陸各地に存在し、ギルドに所属する冒険者の手助けを行う施設、集まりである。

 もちろん無償ではない。

 ギルドに所属する為に莫大な料金を取るところもあれば、施設を利用する度に料金を取るところもある。実力者のみを所属させる為に入会に試験や資格を必要とするところもあれば、宗教や思想に制限をかけるようなところも存在する。

 レグス達が訪れたのは『クガの赤帽子』、通称赤帽子と呼ばれる冒険者ギルドのダナ支部であった。

「……へぇ、じゃあレグスはその赤帽子のメンバーってわけだ」

 レグスの話を聞きながらファバがたずねる。

「いや、違う」

「はっ? だってここは赤帽子ってギルドの建物なんだろ?」

「そうだ」

「じゃあ何で? ……まさか今からここに入会するつもりか?」

「それも違うな。俺はもう別のギルドに入っている。そのうえ掛け持ちはほとんどのギルドじゃ禁止だ」

「ますます駄目じゃねぇか」

「それがそうでもないのさ」

 そう言ってレグスは建物の中へと入っていく。

「お、おい!!」

 慌ててそれについていくファバ。

「うおっ、すげぇな」

 中は広く、格調高い造りとなっていた。

 品のある花や絵画で飾られ、大理石の彫刻までもが置かれている。一流の宿泊施設でもここまで見事なものはそうそう見れはしないだろう。

「さすがは赤帽子だな」

 レグスが皮肉めいた口調で漏らす。

 クガの赤帽子は主に東フリアを中心に拠点を置いており、フリアでも有数の規模を誇る冒険者ギルドである。

 国籍や人種、宗教、思想といったものの制限はほとんどなく広く門戸を開いており、さらに冒険活動における支援の手厚さは素晴らしく、結果多くの冒険者を抱える事に成功していた。

 人がギルドに財をもたらし、その財がさらなる人を呼ぶ好循環によって、これまで赤帽子はその規模を拡大してきており、一見無駄に見えるほど金の掛かりそうな建物の造りも、ギルドの財力をアピールするという役割があるのだった。

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