第36話『ダナの街』
ザナール北部に隣接するパネピア国、この国は一度滅びを経験していた。
かつてアンヘイに君臨した狂王ヌエ、彼の軍勢に、時のパネピア王の末子ただ一人を残し、王家の者達は全て惨殺されてしまう。
唯一アンヘイの魔の手から逃れた末子ナヘルが、共に脱出した臣下の手で育てられ、故国の地に帰ってくる時まで、パネピア人達は自分達の国を失っていたのである。
ナヘルは反アンヘイのパネピア人をまとめ上げたパネピア解放戦線を結成し、狂王の支配に抵抗。後にフリア解放戦争を通して、正式にパネピアの王と認められ、独立に成功する。
これらの経緯もあり現在のパネピアはフリアにおいても東黄人差別が非常に強い国の一つとなっていた。
パネピア南部の街ダナも例外ではない。
ダナはもともと東黄人達が暮らす小さな街に過ぎなかった。
だがナヘルが王となり、パネピア再建を目指す際、この街を各都市と結ぶ交通の要衝として発展させ、住民の九割もが青目系で占められるようになってしまう。
今では東黄系の住民は貧民区へと追いやられ、かつて東黄人の街だった面影はもはや消えようとしていた。
そんなダナの街にレグス達の姿はあった。
「すげぇ人だな」
石畳の大通りに人が溢れ、様々な店が建ち並ぶ。空いた場所では露天商が声を張り上げ人々の注意を惹こうと争う。
活気、生きるエネルギーに満ちた光景がここにはあった。
これだけの人の山を見るのは少年にとって生まれて初めての経験だった。
「パネピアで今一番勢いのある街だろう。……そして人の数だけ情報も集まるものだ」
レグスはまだギュスターヴ・アラスについて多くを知らない。
彼に近付く為には、そのきっかけを掴まなくてはならない。
ダナの街に、その為の情報をレグスは求めていた。
「どうするつもりさ、まさか手当たりしだいってわけじゃねぇよな」
「それも一つの手だが、まずは寄りたいところがある。お前の為にも寄る必要があるところだ、ファバ」
ファバ、名を持たぬ東黄人の少年にレグスが与えた名だった。もとはユロアの古い小説にでてくる豆から生まれた賢人の名だとレグスは言った。
「俺?」
「ああ」
「どこに行くつもりだよ」
ファバの問いにレグスは一言。
「付いて来ればわかる」
と、返すだけであった。
「なんだよもったいぶりやがって……」
不満気なファバであるが、黙って従うしかなかった。
あまり煩わしく思われても、結局は自分が困る事になるのだ。無力な少年は、今はまだレグスの旅に寄生しているに過ぎないのだから。
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