第33話

 少年は盗賊となった。

 山猫に拾われても彼の生活はひどいものだった。

 肌の色の違う『仲間』からは面白半分に殴られ、馬鹿にされた。

 どれだけ新入りが入ろうと、少年は常に最底辺の下っ端だった。

 少年は理解した。

 彼らもまたあの村の人間と違いはないのだと。

 それでも、あの村にはないものがここにはあった。

 決してあの小屋の中では得られない、小さな自由がここにはあった。

 彼が手にしたナイフが、『同胞』の首に突き付けられた時、立場は逆転するのだ。

 自分を見下すはずの者達が許しを乞い跪く、その時の感覚は決して小屋の中では得られない残酷なまでの『自由』であった。

 略奪品を少年が手にする事はまずない。肌の色の違う仲間達が少年から奪い取っていくからである。

 それでも少年が手にした小さな自由、あの高揚感だけは誰にも奪えぬのだ。

 少年は学んだ。どれだけ忌み嫌われようと、支配者となれる力が世界にはある事を。

 また、それこそが『檻』を破壊する鉄鎚であり、外の世界へつながる『鍵』だと。

 少年が欲したのはその力だった。

 そしてダーナン・バブコックこそが『力』を持つ者だと少年は信じていた。

 彼の知る中でもっとも強く、もっとも横暴な男。

 絶対的存在。

 恐怖で他者を従え、虐げ、蹂躙する。

 望むがままに奪い、喰らい、破滅させる力。

 彼は信じていたのだ。


 だが違った。

 突如現れた名も知らぬ東黄人の男は、少年の目の前で『絶対』を破壊した。

 ダーナン・バブコックもまた『檻』に捕らわれた獣にすぎぬ事がこの夜暴かれたのだ。

 三度の衝撃である。

 檻を知り、外世界の存在を知った。だが少年は、世界の広さまでは知らなかったのだ。

 少年の本能が悟る、今がまさしく岐路なのだと、『鍵』に繋がる道が見えたのだと。

 気がつけば少年は声を上げ飛び出していた。

 自分を見下し忌み嫌った者達と同じ色の肌、髪を持つ男の前へ。

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