第26話

「ぎゃっ!!」

「くそ!!」

「こいつ!!」

 闇に響く手下達の怒声と悲鳴もすぐに止み、それは姿を現す。

 返り血を浴びたローブを纏う男。

 黒い剣を手に彼は言う。

「山猫の首領ダーナンよ、殺す前に聞いておきたい事がある」

 いきなりの殺しの宣告に多少面食らうダーナンであったが、彼はすぐにそれを笑い飛ばした。

「ガッハッハッハ、俺様を殺すだと。お前みたいな雑魚一人に何ができる。仲間はどうした。あの化け物達はどこだ」

 ダーナンもそれまでの盗賊達と変わらず、まさかたった一人の男によってこの事態がひき起こされた可能性を考えつきもしない。

 それでもこれまでと違うのは周囲にいる人間の反応だろうか。

 血塗れのローブを纏い現れた東黄人の男にダーナンを除く盗賊達は恐怖していた。

 それもそうであろう。さきほどのまでの悲鳴は、その男達の死を意味している。

 そしてボスであるダーナンがどれほど強かろうと、手下である盗賊達を守ろうという心など持ち合わせていない事を彼らは承知していたのだから。

「猿山の猿はみな同じように鳴くのだな。お前の手下共もそう鳴いて死んでいった」

「取るに足らん雑魚を狩って、戯れ言ほざくのもたいがいにしておけよ、黄色い猿が」

「取るに足らん雑魚か。古くからの戦友もその扱いでは死んでも死にきれぬやもしれんな」

「なんだと」

「マッフェム、バウアー、お前にとって奴らも下っ端共と同じ扱いなのかと言っている」

 結成当初からのメンバーである男達の名にダーナンは顔色を変えた。

 それは手下である盗賊達も同じ。

「嘘だろ、あの人達がこいつにやられちまったってのか?」

「ボス、こいつはやべぇかもしれませんぜ」

 動揺を見せる部下の言葉は、巨漢の首領の逆鱗に触れるものだった。

「黙れ!!」

 ダーナンが大斧を振るとたちまち彼らは物言わぬ肉塊と化す。

 その光景に固まってしまう手下の盗賊達、それとは対照的に敵である男は何一つ表情を変えない。

「てめぇがあいつらを殺っただと? 小僧、俺達はな。あのアンヘイとの戦争で何度も死線を越えてきたのよ。てめぇのような猿ごときに殺れるはずがねぇ!!」

 怒りで血管をはち切らせんばかりに浮かせ、鼻息荒くするダーナンに男は不敵に笑う。

「過去の栄光を語り、酔い、すがる。お前達は過ぎた戦争を支えにしてさ迷う亡霊だな。ダーナン、お前も奴らと同じ地獄へ送り届けてやろう」

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