第16話

「ビンゴだ……。不思議なもんだねぇ。東黄人の猿に知った面は少ねぇ、見ない顔だがなぁ」

 初対面の男に名前を言い当てられ訝るマッフェム。そんな彼を見て男は言った。

「迂闊だったな。弓の使い手が無闇に姿を晒すとは。不意をつけば、私に傷一つつけるぐらいのチャンスはあっただろうに。……この距離ならお前の首を刎ねるのに、手間はかかるまい」

 男とマッフェムの間に距離はそれほどない。そのうえマッフェムは弓を構えてすらいなかったのだ。

「少し話がしたいと思ってな。不意をつく必要はないさ。この距離で十分俺の間合いだ。お前の剣が届くまえに、そのドタマをぶち抜くなんてわけないんだぜ」

「その体勢でか」

「ああ、そうだ」

 男は内心驚いた。弓の名手と呼ばれるような人間の腕前を見る機会は何度かあったが、この狭い距離で彼の剣よりも早く、正確に矢を放てる者など見た事がない。

 マッフェムの言葉に偽りがないならば、彼が出会ってきたどんな弓使い達よりも早射ちに長けた相手という事になる。

「たいしたものだ。お前の思い上がりではないのなら、それほど早く射てる人間を私はこれまで見た事がない」

「だろうな。長い稼業、時には戦場も渡り歩いたが、俺以上の奴ぁいなかった。まっ才能だな」

 マッフェムも解放戦争を生き抜いた男である。巨大な戦争の全てを見て知っているわけではないにしても、一兵士として過ごしたあの戦場に自分以上の人間がいなかったと言うのだからかなりの腕に違いはない。

「だがそれも昔の話ではないのか。人間誰もが老いには勝てまい。ましてつまらない盗賊稼業では才能も腐らせるだけだろう」

「そうじじい扱いしてくれるな若いのよ。それに盗賊ってのも悪かないもんだ。逃げ惑う猿共を射殺すのもなかなか技術が必要でな。腐らせる暇なんてないもんさ」

 残忍な笑みを見せながらマッフェムは言葉を続ける。

「……さて、殺す前に聞いておこうか。……どうやってこんな化け物連れ来た。この辺りで見るような魔物じゃねぇ。ザナールだけでなくフリア全体でも見れやしないだろう。かつてあの戦場で見た、狂王の軍勢を除けばな。……いったい何者だお前」

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