第15話『名手』
――ロッデンハイム!!
砦に反響する奇怪な不快音の正体、それはジヌードと共に召喚された巨大な魔草の危機を知らせる叫びだった。
魔造食人草クチャウは一般の草木がそうであるように普段は鳴きなどしない。だが、自身の身に深刻な危機があった時、生者の正気を奪うかのようなひどく不快な叫び声をあげる。
今まさに砦に響く声のように。
「ジヌード、お前はここに残り、牢の女達を守れ。青い目の男達が女共を無理に連れていこうとするなら容赦なく殺せ。いいな?」
男はそう命じ、牢で震える女達にもここを動かぬよう言い聞かせると、急ぎ砦の三階、ロッデンハイムのもとへと駆け戻る。
ロッデンハイムやジヌード達の成果によってその数を増した盗賊達の死体、砦に散らばるそれらに目もくれず彼は走った。
「ロッデンハイム!!」
魔草を召喚した部屋に男が戻るとそこには鼻が曲がるような異臭が充満し、炎に焼かれる彼の僕の姿があった。
巨大な草が焼かれながら縮んでいく。
こうなってしまってはこの魔草に戦闘能力はない。影に張った根も蒸発するように消え失せ、ただ焦げついた種だけが男の目の前に残った。
「まぁいい、十分だ。今夜はもう休め」
焦げた奇怪な種に語りかけると、男は召喚する際にも使用した巻物を取り出し短い呪文を唱える。
すると、種は巻物の中に吸われるように消えた。
「ほう、お前が化け物の飼い主ってわけだ」
突然、男の背後から声がした。反応してすぐに振り返ると、そこには弓を手にした初老の男が一人立っている。
「ふん、東黄人か。相も変わらず糞みたいな真似をしてくれる」
苛立ちを隠さず、男は殺気のこもった青い目をこちらに向けていた。
ただ者ではないだろう。ロッデンハイムの危機に多少の動揺があったとはいえ、気配を覚られる事なく近付き現れた男だ。
「マッフェム……。弓の名手らしいな」
彼は察した、目の前に立つ男こそが、下っ端の盗賊が言っていた弓の名人マッフェムだと。
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