第12話

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 呼吸が乱れる。返す言葉もディリータには浮かばない。

 彼は恐怖で麻痺し掛けた脳内で必死に状況理解に努めようとする。

――なんだ、なんの仕業だよ、こりゃあ。ふざけんじゃねぇ。仲間じゃない? じゃあなんだってんだ、こいつはよぉ、こいつはぁ……。

 松明を手にしていた手下達はみな殺され、地下牢の闇はさらに深くなっていた。

 もはや侵入者の男の姿すら闇に溶け消えてしまっている。

 その中でディリータは確かに感じていた、闇を駆ける存在を。

 地下牢の天井から、床から、横壁から、何かが激しくぶつかるような音が響く。

 それは速度を増し、それは空を切り、跳ね、駆け、飛んだ。

 ディリータの周囲に確かにそれは存在していた。

「じゃあ、こいつは……、この得体の知れない化け物はなんだってんだ……」

 弱々しく搾り出すかのようなディリータの声。

「そんな事を知ってどうする。お前はもう死ぬんだぞ」

「待て、待ってくれっ!!」

「そう言った者達をいったい何人殺してきた。いまさら自分だけが助かろうと、それが可能だと本気で思っているのか」

 ゆっくりと男がディリータに近付いていく。

「なんでもする!! 命だけは助けてくれ!! 復讐か? だったら手伝ってやってもいい!! あいつを、ダーナンの奴を殺す手引きをしたっていい!! ありゃああれで化け物だ!! 人外の強さだ!!」

「聞いてもいない事をよく喋る。ハイエナにも劣る下郎めが」

「頼むぅ……!!」

 滑稽にもディリータの命乞い。それが通じたのか男は歩みを止める。

「いいだろう。ではチャンスをやろう。一度だけの機会だ。言葉をよく選び答えろ。……キングメーカー、石の在り処について情報を吐け。……今なら少しはまともな答えが聞けると期待している」

 前の問答と違い絶対絶命の危機に追い詰められたディリータ、彼からわずかでも石の情報を引き出せないか男は試していた。

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