第10話

「お前達もよくやる。この暗がりの中で、見事なものだ」

 バウアー兄弟の連携は妙技と言える域に達していた。兄弟の片方だけならば楽に勝てるだけの力量差があるだろう。

 しかし、この二人の盗賊の巧みな連携は互いの持つ剣の使い手としての力量を幾倍にも押し上げ、標的との差を埋めていた。

 男の感想は、素直な称賛でもあったのだ。

「えらく余裕じゃねぇか。けどよぉ、そんな面した野郎を!! あの戦争じゃあ何人もぶっ殺してきた!!」

「その末路が、小汚い盗賊業か」

「野郎!!」

 実力は伯仲していた。三本の剣が舞い、ぶつかり、空を切る。時間にして長いというわけではない。

 それでも侵入者である男の方はもう理解していた。

 このまま戦い続けても無駄に長引かせるだけで、それは賢明ではない、と。

「えらそうなわりには防戦一方じゃねぇか小僧!!」

 ディリータの罵声に男は無表情のまま、奇妙な行動をとる。

 何を企んだか、暗い地下牢の中、不意に指笛を鳴らしたのである。

「な、なんだ!!」

 盗賊達は驚き、警戒する。牢の女達もそれは同じであった。

「なにも起きねぇじゃねぇか……」

 だが目立った変化はない。

「なんだぁ? はったりかぁ?」

 盗賊達の一瞬強張った空気も、変化が起こらぬと感じると緩み、霧散した。

「ガッハッハッハ。小僧、仲間でも呼んだつもりか知らんが、どうやら助けはこないようだぜ」

 バウアー兄弟と男の甲乙付かぬ戦いに、それまで驚きと恐怖を持って見守っていた手下達も、さきほどの緊張からの緩みのせいか下品な笑みを浮かべている。

 男の奇妙な行動によって何か盗賊達が有利になったわけでもないのにかかわらず、ある種の錯覚に盗賊達は陥っていた。

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