最初は森の中からとかマジかよ
どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる。その声を合図に目を覚ますと俺は森の中にいた。
どこを見てもまるでファンタジーの世界。
空を覆い隠すのはビルではなく、巨体な木々。
その木々の根本には、見たこともない色鮮やかな様々なサイズのキノコが生えている。
でかいものだと俺の背丈を余裕で越える。
俺はそんなに大きくも小さくもない平均的な身長なのでそれを越えるということは相当にデカイ。
木の枝に止まる鳥は尾が三つに分かれていてとても綺麗な色をしている。
見るもの全てが新鮮だ。
「俺、本当に異世界に来たんだ……」
改めて口にして実感が沸く。
そのとたんに体の奥から熱が沸き上がってくる。
「やったぞー!ついに来た!」
スーツ姿の大人が森の中で騒いでいるというのは何というか凄いシュールだが、ここは異世界。何も問題ない。
その時、はしゃいでいた俺の視線があるものをとらえた。
切り株に斜めに突き刺さっている剣だ。
その剣の前に紙と何かのプレートが置いてある。
俺はまずその紙を手に取り、書かれてあることを読んだ。
『よお、これを読んでるってことは無事に転生できたみたいだな』
おい、無事ってどういうことだよ。
失敗するかもしれない可能性もあったのかよ。
『まずそこの近くにはそこそこデカイ街がある。そこに行けばなんとかなるだろう。道中にモンスターが出るはずだからそこの剣を使って何とか倒してけ』
マジか、モンスターってことはゴブリンとか出てくんのか?……やべぇ、超楽しみ。
『そしてそのプレートはこちらでのお前の身分証明書みたいなものだ。ステータスとか書いてあるから絶対に無くすなよ』
ステータス?
ステータスってことはスキルとかも書いてあるのか?
早速確認しよう。
俺は切り株に置いてあるプレートを手に取り眺めてみた。
==================
名前 アラキ タクヤ
職業 ーーー
レベル 1
ステータス
力 100
耐久 100
知力 150
俊敏 100
魔力 100
スキル
幸運 運が良くなる。
==================
「……………………」
この世界での平均値が分からないから、はっきりとは言えないが何というかパッとしない。
知力が他より高いだけとかなにそれ。
魔力があるってことは魔法があるんだろうが、ステータスプレートには何も書いてない。
てかスキルが『幸運』って凄い微妙なんだけど……。
俺は気を取り直してイザナミの手紙を読む。
『お前の初期ステータスはその世界のやつらよりは高めに設定してある。ここまでお膳立てしてやったんだからもう文句はないだろ。じゃあ異世界ライフを楽しめよ! byイザナミ』
俺はそっと紙を握りつぶした。
「じゃあ、まずは近くの街まで行ってみるか」
俺は切り株に突き刺さっている剣を引き抜いた。
重いと思ったが簡単に引き抜くことができた。
元々が軽いのか、それともステータスの影響で持つことが出来るのか。まぁどうでもいいか。
俺は森から脱出するために、歩き始めた。
◇ ◇ ◇
「……ここ何処だろう」
早速迷子になりました。
そりゃ冷静に考えればそうだよな。
初めて来る場所だし?そもそも地図がないんだから何処に行けばいいのか検討もつかない。
あの糞野郎。何が文句はないだろ?だ!大有りだよ!せめて始まりの街みたいな場所からスタートさせろよ!
すっかり日も暮れた薄暗い森の中をスーツ姿で片手には剣を持っている二十三歳。ははっ、笑えてくるぜ。
すると、草がガサガサと揺れ始めた。
俺はそっと剣を構える。
学生の頃行った体育の授業の剣道を思い出しつつ体に対して垂直に。
端から見たらなかなかいい感じじゃないだろうか。
身構える俺の目の前に現れたのは……。
サラリーマンだった俺は異世界へ行きました。 夢木 彼方 @yumeki0826
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