死後の世界から異世界へ
目を覚ますと俺は全く知らない場所にいた。
周りは白い靄のようなものがかかっていて、遠くまで見ることか出来ない。
床には芝生のようなものが生い茂っている。
「俺、どうなったんだ?」
その時になって俺は自分がようやくトラックに轢かれたことを思い出した。
慌てて体を確認するがどこも痛くない。
それどころかスーツに傷ひとつない。
「いったいどうなってんだ……?」
俺が今の状況に混乱していると。
「よう、よく来たな!」
いきなり目の前に片手をあげながらやたらフレンドリーな雰囲気を醸し出すおっさんが現れた。
年は三十代から四十代くらいで、身長は俺よりも少し大きいくらい。
その上半身をアロハシャツで身を固め、下は短パンだった。
顔は精悍な顔つきでいわゆる素敵なおじさまといった具合。
「あんた誰だよ」
しかし俺はいきなり現れた不審者に警戒度MAXで質問した。
「俺か?俺はお前らの世界では死後の神をやってるもんだ。名前はイザナミって呼ばれてるな。まぁよろしく!」
あまりにも砕けた態度に俺はしばらく呆然とした。
何?このうさんくさい目の前の不審者は神様なの?
確かに俺は死んだと思う。あの直撃を受けて生きてると思うほど俺は馬鹿じゃない。
なら、こいつが言ってることは正しいってことになる。
これでも生前はソシャゲをそれなりにやっていた。
だからイザナミという名前にも覚えがある。
そのソシャゲに出てきたイザナミが気に入って調べたことがある。
何でも昔は死の神と言われていたそうだ。
それにしても何というか、幻滅したな。こんなアホっぽいやつがあのイザナミとは。
「……お前、今俺のこと馬鹿にしただろ」
イザナミが俺のことを目を細めて見ていた。
「別に馬鹿にしてないよ。それで?俺はこれからどうなるんだ?」
このアホっぽいやつを見ていて俺はようやく自分が置かれている状況に気がついた。
昔読んだ物語ではいわゆる神の審判というものが今から行われるんだろう。
生前の行いで天国に逝くか、地獄に逝くか。
俺はどうなんだろ? 特に良いことも悪いこともしてないけど。
「そうだなぁ、お前は特に目立ったことはしてないしな。あ!そういえば死ぬ前に子供を助けてたな。ならお前はまた現代の世へ生まれ変わることができるぞ!……まぁ、記憶も全て失って赤子からスタートになるのだが」
意外な結果だった。
てっきり天国か地獄に逝くものかと思っていたが、どうやら俺は生まれ変われるらしい。…………あの糞みたいな世界に。
「まぁお前のその顔を見れば嫌なことは分かるわな。…………ならこんなのはどうだ?」
どうやら顔に出ていたらしい。
そんな俺を見たイザナミは悪戯を考え付いた子供のように笑いかけてきた。
「どういうことだよ」
「つまりだな。……ここではない世界。つまりは異世界へ転生しないか?」
異世界。
その言葉に俺は衝撃を受けた。
高校生の頃、お小遣いの大半をラノベ、特に異世界系の本に費やしていた俺にとってその言葉はとても耳に響いた。
あの剣と魔法の世界に行ける?
様々な種族と難解なダンジョンが無謀な冒険者たちを待ち受ける。そんな心踊る世界に行ける?
考えは決まった。
「……それでいい。その異世界に俺を転生させてくれ」
俺の答えを満足そうに頷いて聞いていたイザナミは「よし!では早速」と言うと俺の足元に魔方陣の様なものが浮かび上がってきた。
「ちょっと待ってくれ。いくつか聞いていいか?」
「別にいいが」
イザナミの了承を得たので俺は心置きなく質問する。
「まず、言語はどうなるだ?それと俺の身体能力は?生きてるときは運動なんてそんなにしてなかったんだけど」
正確にはそんなにどころか運動自体をやってなかったけど。ここは少しだけ見栄を張った。ちょっとくらい良いだろ?
「そうだな、その二つについては特に問題ない。俺が神様的なパワーで何とかする」
何だよ神様的なパワーって。
胡散臭さしか感じないんだけど。
「それじゃあ二つ目、魔王とかいるの?」
「それはいった先で自分で確かめろ。……そろそろ時間だ。せいぜい楽しんでこいよ!」
その声が聞こえたかと思うと俺の体は浮き始めた。
「うぉ!何だこれ!」
「ハーハッハッ!それじゃあなタクヤ!」
こうして俺は異世界へと旅立った。
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