ミラー

━━いつも迷惑メールは、時間なんて気にしてはくれない。


たまについてくる添付画像。

それはきっと闇の世界へのお誘い、なのかもしれない。━━





………スマホのテールランプがメール着信を告げたのは、深夜3時ジャスト。


寝始めたのは、一時間ほど前の深夜2時くらい。

テールランプの光で半覚醒する。



「……こんな時間にどこからだよ。どうせ迷惑メールだろ。」



そう思いながらも、メールを確認する。



『From:

件名:

内容:』



全てが空欄………と思ったら、したの方に写真が見える。

真っ黒で何も見えない。

気味が悪くて、すぐに削除した。





それから毎日、同じ時間に同じメールが来るようになった。

後悔しても遅い。

下手に開けたら、更にしつこく来るのが最近の迷惑メールだ。

削除するために開いて、ゾッとした。

見ないで消していたはずのこのメール。

…………全てしっかり、受信ボックスに入ってたから。

確かに削除して、件数も数えて、削除数も見て…。



……恐る恐る開けてみる。


最初に見た一通目。

ただの真っ黒な写真。

二通目は少し薄明るいだけの写真。

三通目を見て、目を擦った。

……ゆらゆら何か揺れた気がした。

これは写真じゃない?動画なのか?

四通目を開いたとき、俺はスマホを取り落とした……。

そこには…………。



真っ暗な背景に浮かぶ、人の顔らしき輪郭のもやみたいなものが写っていた。

しかも、やっぱり揺れている気がする。


……ここで止めておけばよかった。

しかし、人間というものは困った生き物だ。

はっきりさせなければ、収まりがつかない。

それが何なのか、知りたい好奇心が勝る。

俺はスマホを拾い、五通目を開いた………。


…また、取り落としてしまった。

はっきり人の顔だと判断し、あれ?と見直す。

……………俺の顔だ。

しかも動いているように見えたのは、鏡になっているから。

俺と全く同じ動きで覗き込んだり、離れたら離れる。

多分、今までのも確認すれば同じだろう。

カメラ添付なんてアプリくらい、何処かで作ってそうだし。


けれど、違和感を思い出すのにそう時間は掛からなかった。

全てが同じならば何故、送信元アドレスがないのか…。

いや、たまに迷惑メールにそういうのはあった気がする。

………でも、何のために?


メールはまだある。

機能が一緒ならいいが、何だか"何か"徐々に近づいて来ている感じもする。

不安に思いながら6通目を開いた。

……全く同じように思えたが、一瞬違う動きが見受けられた。

口元が何か言おうと開いたような…。

7通目………!?

そこには………俺ではない別の男が怯えた顔をしながらこちらを見つめていた。



「な!何なんだよ!これ!」



即座に画面を戻し、勢いのまま8通目を開く。

………同じ見知らぬ男が見えた。

そして………。


『………タスケテ。』


…そう聞こえた。

スマホを取り落とすと、画面の中で勝手にスライドして次のメールが開く。


『タスケテ!』


更にはっきり言いながら、画面を引っ掻いたり叩いたりしている。

俺は怖くなり、後ずさる。



「何のイタヅラだよ!!」



…………そして、次の、最後のメールに自動で切り替わる。




画面の男がスマホから這い出して来る。



「来るな!こっち来んな!!」



俺は腹這いになって男から逃げようとする。

そんなことは無駄な足掻きとでも言うように、男が必死で俺に向かってくる方が速かった。



「う、うあああああああああああああああああああああああああ!!!」



ついに俺は男に足を掴まれる。

そのままズルズルと引き摺られていく。



「やめろ!!何すんだ!!」


そのまま気を失った。


















…………目が覚めると、周りは真っ暗だった。

何も見えない。…いや、目の前に薄明かりが見えた。

そちらに目を向けると、俺が笑っていた。

…違う。"俺の姿"をした別人だ。

俺はあんな笑い方なんてしない。


…さっきの男?





俺の姿をした男が言った。


「…助かったよ、ありがとう。あんたも戻りたいなら、別のヤツを探して入れ替わりな。」




そして、完全に闇に閉ざされた。

俺はわけがわからず、ヤツがいた場所に走ろうとして、何かに当たった。

……左右前後同じ。ここはまさか……。


"あの男"がいた場所?


アイツのように開いてくれるヤツを探さなければならないのか…。

入れ替われる誰かを…。


















…………誰か、誰か俺を……………。














『…タスケテ!』

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恐怖メール 姫宮未調 @idumi34

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