第21話世間におけるSFの扱い

 「ほとんどの人はSciFiを知らない」と関係する話。

 映画「オブリビオン」でも「インターステラー」でも、劇場公開時の宣伝にはSF(それが何であれ)という言葉は使われなかった。正確には、「オブリビオン」では確実に使われていない。「インターステラー」はおそらくという程度だが、あるいは大きな宣伝に隠れてSFという言葉も使われていたかもしれない。

 オブリビオンやインターステラーのSF(それが何であれ)としての出来はともかく、なぜこのようなことがおこるのだろう。オブリビオンについては宣伝側の弁明がある(もしかしたらパンフに堂々と書いてあったのかも)。というのも「トム・クルーズで客を呼べるのに、『SF』という言葉を使うと動員数が減る」というのだ。

 考えようによっては、これはものすごいことである。「SF」という二文字が、大人気俳優であるトム・クルーズを圧倒するという。世間はどれほどSF(それが何であれ)を嫌っているのだろう。

 インターステラーではトレーラーも作り直し、「親娘の絆」を前面に出していた。

 そしてそれらも、あるいは他のものでも劇場のスクリーンに飲み物を投げ付けたくなるくらいに、「愛」とか何とか言っている。正直な話、そういう時にそなえてエチケット袋を持参するようにしている。生理的に受け付けない「愛」うんぬんがあり、さらにクドいほどになると、マジで吐くからだ。もちろん、念のために事前に頭痛薬の類いを服用することも習慣になっている。


 まぁSF(それが何であれ)という言葉を先立って使わないということは、その映画はSF(それが何であれ)ではないということだ。もし後から使うのであれば、詐欺と言われてもしかたがないだろう。なにせ、トム・クルーズをも圧倒するほどに嫌われているのだ。「観たらSF(それが何であれ)じゃないか! こんなのは俳優の名前で釣った詐欺だ! 金を返せ!」と言われてもおかしくないはずである。


 それに対して、積極的にSF(それが何であれ)という言葉を宣伝側が使う場合がある。トム・クルーズほどには動員に期待できる要素はないものである。おおまかに言えば、「SFってつけておけば、SFバカはとりあえず見るだろう」という扱いである。


 そのような結果、公開時の宣伝に基く日本における正式なジャンル分けをした場合、SF(それが何であれ)の内容は目を覆いたくなる惨状を呈している。SF(それが何であれ)の中核に近いものはその中には存在せず、コメディー、恋愛などなどにおいて「ロボットが出てます」程度のものがその中を占めている。


 ある映画において公開時の宣伝ではSF(それが何であれ)という言葉を使わなかったとしよう。ならば、それは「その映画はSF(それが何であれ)ではないと定義している」と言っていい。好意的に「言明がないということは、ドントケアである」と考えることももちろんできる。だが、ここではそのように優し扱いはしない。SF(それが何であれ)と言わないなら、SF(それが何であれ)ではない。SF(それが何であれ)であってはならない。ならば、作中にSF(それが何であれ)要素は入っていてはならない。なにしろSF(それが何であれ)はおまけ要素だろうと思えるものをしてSF(それが何であれ)と呼んでいるのだ。ならばSF(それが何であれ)と言わないということは、相応の重みを持つはずだからだ。であるならば、制作会社や配給会社からどれほどの違約金や賠償金を請求されようとも、一片のSF(それが何であれ)的要素も残さないように、編集しなおした上での公開であらねばならない。


 このようにSF(それが何であれ)というジャンルは、他のジャンルほどに敬意をはらわれていない。世間的にはゴミ箱扱いである。SF(それが何であれ)というジャンルを名乗るなら、そのジャンルをゴミ箱扱いしていい理由はないだろう。SFバカがいろいろ五月蝿いのには、このようなちゃんとした理由がある。猿脳にとって、判断を下すまでもなく明確なジャンルとは違う。そのジャンルがジャンルであるためには、五月蝿くならざるをえない。だが、SF(それが何であれ)を、結局世間の猿脳から守ることはできなかった。猿基準SF(それが何であれ)が、すでにSF(それが何であれ)を名乗っていた猿基準SF(それが何であれ)を根拠に、自分もそうだと言う。そして、それは増殖した。もう戻れないほどに。

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