SciFi創作論

宮沢弘

第1話非人間的であれ。どこまでも非人間的であれ

 まず、精神論と知識についての話から始めましょう。


 SciFiを書こうと考えている方に、まずいくつか知っておいて欲しいことがありまます。

 その1: 日本人のSciFi作家を主に読んでいる方へ。それらの作品はSciFiではないと思ってください。これは、何なんでしょうね。日本での文芸に関しての感覚というのでしょうか。書き手も読み手も、情緒とかどうでもいい方向に流れています。情緒を排除しているのだろう作品もありますが、それは「排除」という形で結局書き手も読み手も意識してしまいます。

 その2: 映画、アニメ、ラノベ、マンガから、「SFってこういう感じか」と思われている方へ。それらは、SFではあったとしてもSciFiではありません。その場合の "SF" とは何なのかは知りませんが、SciFiではないことだけは確かです。マンガには例外的な存在としてSciFiが存在します。ですが「SFってこういう感じか」と思われている場合、その弁別は困難でしょう。なので、ここでは思い切ってマンガ全般も排除の対象とします。なお、これは「映画などはSciFiではない」のではなく、「映画などにはSciFiは存在しない」という違いに注意してください。文字至上主義なのではなく、存在しないだけです。そして、映画がどれほど多くの人を対象に作られるかを考えると、映画においてはSciFiを作ることは極めて困難だということもわかるでしょう。映画、アニメ、ラノベ、マンガは、言ってしまうなら、わかり易さが重要です。そのわかり易さは、SciFiとは対極に位置するものでさえあるでしょう。

 その3: 特定の作家を神格化(?)している方へ。神格化はやめましょう。既に存在するSciFi作家は信仰の対象ではなく、論考や批評の対象です。さらに言うなら、「こいつはクソだ!」と言う対象です。


 では参考にする対象はどのようなものでしょうか。欧米の古典とされる作家と作品は当然入ります。

 メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン; あるいは現代のプロメテウス」、ジュール・ヴェルヌ、H・G・ウェルズは、まず読まなければならない対象です。

 古い作品で読んでおかなければならないものとしては、カレル・チャペックの「R.U.R.」、エヴゲーニイ・ザミャーチンの「われら」、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」、ジョージ・オーウェルの「1984年」、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」を挙げておきます。

 その後はレイ・ブラッドベリ、アーサー・C・クラーク、アイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインライン、フィリップ・K・ディック、ラリー・ニーヴンというあたりでしょう。それらを基礎として、1980年代から2000年代の作品を読みましょう。

 この年代ですが、1980年代は、SciFiの先鋭化がまだ進んでいる面もあります。それと2005年以降は、また新しい先鋭化が進み始めた時期でもあります。SciFiにおける先鋭化がどのようなものであったかを知るためにも、少しだけ幅を取って1980年代から2000年代としておきます。


 さて、このような前提を満たしたとして、このタイトルである「非人間的であれ。どこまでも非人間的であれ」に戻りましょう。これを正確に言うなら「人間的であれ。どこまでも人間的であれ」となります。矛盾しているように感じますか? 感じてくれるとうれしいですが。

 それはどういうことなのでしょうか。簡単なことです。一般に言われているであろう「人間的」という言葉は、「人間的」であることを指していないからです。ですから、一般に言われているであろう「人間的」という言葉は、「類人猿的」と書く方が正確な意味を持つでしょう。あるいは「類人猿的」という言葉もあまり適切でないとしたら「亜人間的」と書くのがいいかもしれません。それとも…… 「26世紀青年」(現代: Idiocracy)という映画がありますが、そちらに敬意を表わすなら、「Idiot的」と書くことができるかもしれません。おそらくは、この「Idiot的」という書き方が、一般に言われているであろう「人間的」の意味としては一番適切でしょう。共感、安心、愛憎というものを人間的と呼ぶなら、まさにそれらは「Idiot的」なありかたです。人間的であるとはどういうことかを考えると、それは人間的知性によるものでしょう。それは「非Idiot的」であると書くのが相応わしく思えます。

 そこでこのタイトルに戻ります。あなたがIdiot的なものを書こうとするなら、それはSciFiではありえません。そしてIdiot的であることを人間的であると言うなら、SciFiを書く際に目指すところはただ一つ、「非人間的であれ。どこまでも非人間的であれ」となります。

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