第10話 波乱のトーナメント!?

「シュ~ン! オレも決勝トナメにあがっ……たぜ?」

「あぁ良かったな。どうした?」


 ヤマトの歯切れの悪い言葉に、オレは素知らぬふりをして疑問を投げる。万が一の可能性もないほど、オレの横に居る女性プレイヤーについてだろう。

 今はヤマトの脳が目から入れた情報に処理が追いついていないだけなのだ。


「……お前ってやつは!!」


 少しの間呆けた面をしていたヤマトがこちらに拳を振りかぶって迫る。


「うおっ!」


 ゲーム内だからと言って殴られるいわれはないため、後ろに跳んでその拳を回避する。


「また女をひっかけてきたかと思えば……誰かと思えばクリスちゃんじゃねぇか!!」


 クリスは現状日本人のプレイヤーでは非常に有名だ。非公認のファンクラブすらできているとかいう噂も、目の前のヤマトから聞いたことだ。まだクリスが世間に出て一週間も経っていないのにである。どこのアイドルだよ、と思わないでもないが実際アイドルである。オレも先に知り合っていなければファンになっていたかもしれない。


「またってなんだよ! 人聞きが悪いぞ!」


 拳を避けられたヤマトは追撃の上段への回し蹴りを放ってきたが、それを腕で受け止める。実際には腕に触れてはいないのだが、なんとなく受け止めてしまうのはしょうがないだろう。


「違うのか!?」

「ちげーよ!!」


 システム的にプレイヤーを傷つけることはできない。目に見えぬ壁に阻まれたヤマトは弾かれるようにして距離を取ってきた。

 睨み合いはすぐに終わる。


「あの、この人誰?」


 クリスがオレに質問した。横目で見ればアオイさんはかなり困惑した表情でオレ達のやり取りを見ている。クリスの印象が強すぎてアオイさんの存在を認識していないヤマトはやはりアホだ。


「ああ――」

「自分はヤマトと言います! 接近戦が得意です!! 今回も決勝トーナメントに出場しましたので、そこの能無しよりも強いです!! 以後お見知りおきを!!!」


 オレの声を遮るようにしてヤマトはクリスに向かって敬礼をした。自己紹介が無駄に気合いが入っている。さらにはまるでオレが決勝トナメに出場していないみたいな言い方である。

 というかオレとお前の戦績はオレの方が勝ち越してるだろうが!!


「そうなんだ……知ってるかもしれないけど、あたしはクリス。一応このゲームのCMに出させてもらってるわ」


 ヤマトの勢いに若干引きつつもクリスは愛想笑いを浮かべて自己紹介をしている。ヤマトも本物のクリスであろうと分かって顔に歓喜の表情が浮かんでいる。こんな感情の変化もしっかりと表現しているのだからVRの進化は凄まじいと改めて感動させられる。


「……まぁ一応オレのリア友だよ」


 肩を竦めて補足する。どうせクリスも月曜からは同じクラスメイトになるのだ。知っておいて損は……ないはずだろう。


「一応とは何だ! 永遠の親友だろ? 」


 な? みたいな視線をオレに送るな。さっきは能無しとかこき下ろしていたくせに、変わり身の早さは世界でも稀ではないだろうか。


「うっざ」


 肩を組もうとしてきたためそれを躱す。


「ヤマトって2組の瀬良大和くんですか?」


 ヤマトは学校内ではある意味アオイさんほどの有名人である。彼の親しみやすさは無駄にかなりのものだ。先日の集会も無駄に人が集まっていたのもその無駄な求心力を証明している。

 主に男子に好かれる男子である。女子も離れて見ている人たちにとっては彼はイケメンでコミュ力も高くユーモアがあってクラスの人気者(男子限定)とかなりの高評価なのだが、同じクラスの女子には基本的に人気がない。

イケメンであるから許されてはいるが下世話好きである。エロの化身と噂されるほどに変態的な面がある。そしてあの謎の集会の主催であることも相当なマイナス点だとか。


「そうっす」


 待てよ。アオイさんはこのアホが、いかに口が軽く脳と下半身が直結しているかを知らない。


「やっぱり。私は――」


 彼女が望む学校内での平穏な暮らしが崩れてしまう!

 ゲームをやっているなんて言いふらされた暁には今まで高嶺の花だと思っていた野郎どもがこぞって話しかけている未来が見える。それはダメだ。

 本音としては何がダメってオレの専売特許的なところがなくなってしまう。いやなくなりはしないかもしれない。しかし鬱陶しい虫がまとわりつくのは逃れられないだろう。クリス的に言うと害虫が発生してしまう。

 オレは保護者か!


「この人はアオイさんでクリスの友人なんだ」


 オレは自身の我儘と善意の押し付けから、アオイさんの言葉を遮って紹介を代行した。


「アオイさんってあの?」


 ヤマトは当然の疑問を口に出した。オレの学校の生徒ならば誰だって葉月葵を想像するだろう。


「この人は今週知り合った人だ。ゲーム内で迷惑行為を受けてるってことで依頼を受けたんだ」


 否定をしない代わりに、葉月葵という現実にいる人物のイメージ上そぐわないことを口にした。


「なんだよ、またお前のお人よしか。ま、いいや。よろしくお願いしますアオイさん!」


 こんなゴリ押しで意識を逸らせるのだからヤマトは考えて物事を見ているのか気になる。

 そんなヤマトは肩透かしを食らったとばかりの態度だが、それを即座に切り替え無駄にイケメン爽やかスマイルで挨拶をする。こういう姿を見ていると、やはりヤマトの第一印象は至極良い人間である。


「こちらこそよろしくお願いしますね」


 アオイさんもこちらはこちらでとても可憐な笑顔で返す。やはりかわいい。デジタルであったとしても彼女の可憐さは随所に表れてしまっているのだから罪なもんだ。


「ところでシュンはそんなにアオイみたいな人を助けてるの?」

「そうなんですよ! こいつリアルだとムッツリしてるから勘違いされがちなんすけど、お人よしなんすよ。絶対裏があると睨んでます」


 クリスの質問に答えたのはオレではなくヤマトだ。リアルでムッツリとはどういうことだ。それを言うならムッスリ――愛想が悪いだろうが!! 

 てか、裏があるってなんだ。お前と一緒にするな!


「誰がムッツリだ、それはお前だろうが! それに裏なんかねぇって言ってるだろ!」

「うるせぇ! オレはオープンだ!」

「その情報はいらないんだけど……」


 クリスはオレたちのやり取りに苦笑い気味に言葉を零した。それを聞いているアオイは顔を赤らめている。イメージ的にはそういう下世話な話の知識が乏しいと思っていたのだが人並みあるのだろうか。


「とにかくこいつは戦闘狂のくせしてお人よしなんですよ」

「戦闘狂とは失礼だな。お前の戦い方の方がよっぽどだろ」

「戦い方の問題じゃねぇ」


 またしても売り言葉に買い言葉でヤマトと睨み合う。


「ヤマトくんはどんな戦い方をするんですか?」


 オレとヤマトが睨み合いを始めるともう慣れたのかアオイさんは疑問を口にした。


「こいつ戦い方は接近戦主体なんだ。まぁあの射撃の腕じゃ射撃戦は無理だろうがな」


 ヤマトの射撃のセンスのなさはピカイチである。アオイの爪の垢でも煎じてやりたいものである。

 いや、ヤマトにはもったいない。オレがいただく。

 冗談はさておき……。


「接近戦主体ってことはヨハン選手とかが好きな選手なの?」

「その通り!! 俺が所属してるクランはヨハンさんの作った『円卓の騎士ナイト・オブ・ラウンズ』です」


 クリスが続けた質問には即答だった。ヤマトはヨハン選手の戦い方に惚れたからと言う理由で同じ戦い方を目指しているのだ。もっとも射撃が本当に下手なので悪くない選択ではあった。


「ヨハン選手って?」


 アオイは彼のことを知らないのだろう。


「搭載武装が剣だけの選手で『剣狂い』と呼ばれているプレイヤーだよ」

「その接近戦の技術は世界でも最高と言われているの」

「俺みたいに接近戦で戦うプレイヤーにとっては神みたいな存在ですよ」


 その簡易な説明にクリスとヤマトが追加で説明をする。

 クリスが言うように接近戦の技術だけを競うならば、ヨハンが世界最高でも疑問はないだろう。そしてヤマトの言うように彼はヤマトのようなプレイヤーにとっては憧れなのである。

 しかし世界最高の接近戦の技術だけでは勝つことはできない。このゲームには射撃武装がそれこそ刀剣類よりも多く存在しているのだ。それを掻い潜る力も並を圧倒しているヨハンでさえシングル戦のランキングは23位である。それほどまでに接近戦のみで戦うというのはシビアな世界なのだ。

 剣だけでは限界があるのは否定できない事実となっている。

 ここで着信のアラームが鳴った。オレとヤマトは顔を見合わせる。時刻は0時になったところである。


「128人が決まったか」


 そうヤマトが呟く。


「もうそんな時間なんだ」


 明日――正確には今日の夜に行われる決勝トーナメントに出場する選手128名が予定通り決まったのだ。その選手名が羅列されたメールが届いた着信音だったのだ。


「……当たり前だけど、あまり知ったプレイヤーはいないな」


 ざっと見たところ本当に今回は新しい名前が多い。決勝トーナメントはトーナメント表は存在しないので、始まるまでは誰に当たったかわからないため対策も立てにくくなっている。


「オーバーナンバーズがいないからしょうがないでしょ」


 クリスの言うように今回は彼らがいないため、少々しょぼく見えてしまうのは仕方がないだろう。この大会を見る者の目的は、超常的とも言われるほどの戦闘なのだ。

 彼ら以外は全く寄せ付けない圧倒的強さによる淘汰が今回はない。故にこのトーナメントに勝ち上がった者たち皆に等しく優勝が可能であるということでもある。なので今までと違い、優勝者がある程度分からないという新鮮さがこの大会にはあるのだ。


「おい、シュン! これ!」


 そう言ってヤマトは他人に見えるように可視化したディスプレイをオレに見せる。


「こいつは……」


 ヤマトが指を指したプレイヤーネームを見るとそれはオレの覚えのある名前であり、最近さらに有名になったプレイヤーでもある。

 その名は噂によると日本人であるオパパであった。


「この人……」


 オレと同じようにヤマトのディスプレイを覗いたアオイさんが口に手を当てて驚いている。彼女も知っている名であり、かなり迷惑をかけられたプレイヤーでもある。ふざけた名前に反して腕は一流だ。


「どうしたの?」


 クリスはアオイの反応が気になったのだろう。遅れてヤマトのディスプレイを覗きこんだ。


「オパパ……って“あの”オパパ?」


 あの、とはアンドロメダのオパパか? と言う意味だろう。クリスもこのVFをやっている以上そういうことにアンテナを張っていており、最近起こった話題に詳しくても不思議ではない。そもそもオパパ自身がもともと有名人なのである。またはアオイから直接ストーカー被害に会っていたと聞いているのかもしれない。


「ああ、あのオパパだろうな」


 オレはクリスの疑問に答えた。奴が実力者であることは間違いない。初見であのテクニカルな機体の攻撃全てに対応せしめるなど、それこそ十傑機でしか無理だろう。オレはアオイさんのフォローのおかげで何とか勝てたと言ってもいい。事実オレは一人でオパパを打倒できたとは言えないのだから。


「シュンは奴に恨みを買ってるからな」


 茶化すようにヤマトはオレの言葉に続く。


「そうですね。私のためだったんですけど……」


 アオイさんは自分を助けたせいでオレが恨まれてしまったと思っているのだろう。俯き加減で呟くように言葉を口にした。


「大丈夫。アオイさんのせいだなんて思ってないからさ。それに対戦する確率なんてものすごく低いし」


 まぁ対戦したとしても次こそは自力で勝つ。

 オレはアオイさんのことで恨まれているとは思っていない。確かにオパパと接触したのはあの時が初めてだが、それはオレが彼女を助けたいと思ってオレ自身が選んだことだ。だから彼女のせいなどとは欠片も思っちゃいない。いつだって選択した自分の責任だと思っている。


「オパパはアンドロメダ幹部の中で最弱らしいし、シュンなら余裕よ」


 ヤマト同様冗談めかしていうクリス。シングルランク61位が最弱とはアンドロメダは規模だけではないということか。


「そうですよ。こいつはいつも恨まれてるんで、気にしないで下さいよ」


 ヤマトも余計だが、余計でない一言を追加した。

 誰に恨まれてるってんだ!


「ありがとうございます」


 皆の言葉に気持ちを切り替えたのだろう。アオイさんは行儀のよい礼をした。やはり彼女に暗い顔は似合わない。

 その後は他愛のない話を数分だけして解散となった。決勝トーナメントの開始は今日の20時である。

 それまではゆっくりとしていよう。そう思って布団の中で目を閉じた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、昨日の予選に引き続き今日も各対戦の模様をお送りしますよ!」


 時刻は19時を回ったところだ。昨日同様のパーソナリティである二人と準パーソナリティである二人は変わらず、今日の決勝トーナメントの試合を中継するようだ。ゲーム内の巨大なモニターでネット放送を見ながらゆっくりと過ごすことはある意味ルーチンとして気持ちを落ち着かせてくれる。


「今日の決勝トーナメントもいつもと仕様は同じで、勝ったプレイヤーのランクが低ければ勝利した人のランクと入れ替わることができます!」

「ランクが低い人はまさかの大躍進のチャンス!?」


 クリスとハルトがいつもMCが行っている説明を代わりに行っている。オレのシングルランクは100位に少し届かない程度である。決勝トナメに残っている者は128名いるがそのなかでも平均より低いランク帯かもしれない。


「というわけでトーナメント第一回戦始まります!」


 いつものMCである安城愛美ことあーみんがテンション高く宣言した。

 128名で行われる決勝トーナメントにトーナメント表は存在しない。ランダムで振り分けられたプレイヤーと対戦をしていくことになる。誰と当たったかは試合開始時にしかわからなくなっている。


「よし……!」


 オレは気合いを入れて試合に備えた。



 決勝トーナメント第一回戦の抽選が行われたため、目の前に試合開始を告げる10からのカウントダウンと対戦相手のプレイヤーネームが表示される。


「ケイジ……」


 対戦相手の名前を見るも見覚えのあるプレイヤーではない。そのためそのプレイヤーの情報はオレの頭の中からは出てこなかった。

 カウントが0を告げると共にオレの体がポリゴン片となり分解されるように転移した。一瞬の暗転の後、ほの暗い宇宙空間にオレの愛機と共に放り出されていることが理解できた。

 ただ広い宇宙空間のようで周りに障害物らしきものは存在しない。不意の接敵による遭遇戦はオレ自身が注意を払っていればありえない空間である。これは同時にこちらも不意を衝けないことを意味する。機動性を活かしてヒットアンドアウェイは難しいだろう。

 状況確認をすぐさま終えるとアラートがなる。斜め前方からの牽制射撃だろう。

 ビームライフルの弾丸が飛来する。狙いは定まってはいないようである程度の位置に向けて撃ったのだろう。先制攻撃をしてきたということは索敵範囲は敵機の方が広そうだ。といっても開けた宇宙空間なので機体を動かしているだけでバーニアの光により位置がばれるため、今回はあまり索敵能力は重要ではない。


「日本人同士で潰しあいなんてやだねぇ」


 挨拶代りのビームに続いて通信が敵機から飛んできた。どうやら相手も日本人らしい。


「オレが日本人とは限らんだろ」


 素直に返答するのも癪なので適当に食ってかかる。


「シュンって名前が日本人じゃないわけないじゃんか」

「それもそうか」


 まっとうな理由を言われてしまうと認めざるを得ない。特段隠すことでもない。


「それよりあんた噂のシュンってプレイヤーだろ?」


 敵機を確認EOプロキオンである。特徴的な頭部の動物の耳のように突き出た突起が広範囲レーダーの役割をしており、それゆえに情報戦に秀でた機体であり、さらに平均的なVFよりも全高が低くコンパクトな機体である。情報戦に秀でているため機体なのでかなり人気のない機体だ。なぜなら必ず後衛支援をさせられるからであり、花形から遠い存在だからである。そんな《プロキオン》であるがケイジのものはカタログ通りの見た目ではなく、機体の左側を覆うようにマントのような布を取り付けている。

 あれは……。


「なんだ、噂って?」


 喋りながらもケイジはぐんぐん距離を詰めてきている。この話しかけるのも一種の作戦なのだろうか。それよりも噂とは何だ。


「予選でアルドを倒したんだろ? 無名のプレイヤーがあのアルドに勝ったって結構話題だぜ」


 昨日の予選のことだろう。クリスに聞いたところオレとアルドの対戦する模様はちょうど放送されていたらしい。そのためアルドが寸でのところで命拾いをしたことを多くの視聴者が知っているのだ。


「予選でアルドとは戦ったが別に勝っちゃいない」


 確かにアルドとの勝負はオレの勝ちで終わったが試合では相手に逃げ切られてしまった形だ。だから次こそ勝負・試合どちらも勝利しなければ勝ったとは言えないと感じている。


「ありゃあんたの勝ちだろ。誰がどう見たってな!」


 オレの否定に対してケイジはそう言いながら、銃口が等間隔に6つ存在するヒュドラと呼ばれるビームライフルで答えた。ヒュドラの利点はやはり弾幕の形成が容易であることだろう。一度のトリガーで6つのビームを放てるのだから相当な弾幕量を一機で補うことができる。エネルギー消費がその分激しいものの、一対一であるこのような試合ではそこまで気になるほどではない。


「当人のオレの意見は無視か?」


 そう言いながらオレはヒュドラから発射されるビームを、機体を下方向へ沈み込ませるようにして回避。弾幕形成は可能だがヒュドラの銃口は全て平行に取り付けられているため、ショットガンのような面制圧ではなく線での射撃である。そのため回避の仕方は上下に避けるのがベターだ。

 回避したと同時にオレもライフルを発射し応戦する。


「尊重するさ、まぁなんの拘りかは知らないがな!」


 ヒュドラの3連射は上下に逃げられても良いように、絶妙な上下の間隔で発射された。


「ちっ」


 先と同様に潜り込むように躱そうとしたが、下に発射されたビームは避けきれないと判断して機体を横にし、左肘部分に搭載したビームシールドを最大出力で展開。二発ほどシールドで受けて無傷でやり過ごす。


「やるねぇ! やっぱ決勝トナメはレベルが違うぜ! あんたもそう思うだろ?」


 陽気な声でケイジは話しかけてくる。こいつには集中と言う言葉はないのか。

 オレは集中するために回線をオフにした。

 既にお互い一発でも食らえば撃墜は間違いない距離まで詰まっている。オレの搭乗するアルタイルは軽装甲高機動型であるため、通常のビームライフルの直撃を受ければその部分は吹き飛ぶこと必至である。相手の《プロキオン》にしてみても防御への追加装甲はほぼなされていない。しいて言うならば左側を覆うマントだろう。

 おそらくあれは対ビームコーティングをされたマントだ。

 相手の機体の左側はマントに覆われていてよく見えない。なにか武装があると不意を打たれかねないため、マントをはがすことを優先する。

 そう決めたところでケイジの《プロキオン》は一直線にこちらに突撃。全てのスタスターを使っての特攻のような突撃だ。

 突如の突進に慌てることなく下がりながらビームライフルを撃つ。しかし通常の火力しかないビームライフルのためかマントに全て弾かれる。

 対ビームコーティングを施したマントであるとの予想は合っていたようだ。マントはビームライフル程度ならば何発かは耐えきれるのだろう。


「ビームライフルがダメなら」


 オレは猛然と接敵を試みる敵機に対して自機を前転させる。そして敵機と向き合った瞬間、腰にあるランケアV粒子収束ビーム砲を発射。

 突如の行動は意表を付けたのだろう。突撃中の相手はまるで避ける気がないかのように粒子砲のビームに直撃。朱色のビームがただのビームライフルとは段違いの速度と破壊力でマントを根こそぎ吹き飛ばす。

 相手のマントが吹き飛んだが、まだ勝利のコールは流れていない。直撃したように見えてうまく防いだのだろう。だが敵機は満身創痍でまともな機動が取れない。

 オレは間髪入れずにもう一度粒子砲を撃ち込んだ。圧縮した朱色のV粒子が漂うもの全てを吹き飛ばして目標に着弾。《プロキオン》の左腕の半壊したシールドで防ぐ仕草が見えた。しかし撃ちだされた二発の内一つを、盾を犠牲にし辛うじて受け止めてみせる。だが残りの一発が右胸部に直撃し機体を貫通爆散させた。


 勝利のコールが鳴ったことにより一回戦を勝ち抜くことができた。ここに転移させられた時と同様にポリゴン片にオレの体が変わり、一瞬の暗転の後にマイルームに戻った。二回戦はまだ始まらないようだ。

 ケイジの敗因は対ビームコーティングマントを過信しすぎたのだろう。事実ビームライフル程度ではマントをはがすことは些か難しかったろうことは確かだった。照射するビーム砲とは違うため、この粒子砲の威力を侮っていたところだろう。

 ため息を吐いてから次の試合になるまでリラックスするために頭をからっぽにすることにした。

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