第8話 勇者、目覚める
俺は、夢を見ていた。
そして俺はここが夢の中だということに気がついていた。
この真っ暗な空間の中を俺が見回していると、そこには真っ白な人型が浮いていた。
俺は、その真っ白な人型に吸い込まれるように近づいていった。
その真っ白な人型の近くまで俺が寄るとその人型はちゃんとした人としてそこにいた。
俺はその人に見覚えがあった……
まるで、鏡を見ているかのような、それでいてまったく別物のような不思議な感覚に陥っていた。
俺がその人を見ていると、その人は俺に語りかけてきた。
「大丈夫、貴方は大丈夫……さぁ、戻りなさい貴方がいた場所へ」
その人はそう言い、俺に合わさるように消えていった……
そして、俺は浮遊感を味わいながら意識が途切れていくのを感じていた……
□□□
「……ここは」
……いや、知っていた。
私が体を起こし、周りを見回すとそこは、私が魔王に与えられた部屋だった。
「確か……私は、あいつに捕まって……!?」
……私はそこで一旦言葉をとめていた。
なぜなら……
「あ、あれ?私のことを私って……」
一人称が変化していた。
そしてそれは、今まで使っていた『俺』よりしっくりきていた。
試しに自分のことを『俺』と呼ぼうとしたら『私』となって口から出ていた。
しかたないので私は、少しずつ自分の現状を整理してみることにした。
「……今は考えてもしょうがないか。一旦整理してみようかな。」
私は捕まっていた。あの夢魔のランバの手によって、そしてそのランバには協力者がいた。
その協力者は女ということ以外誰だか分からないけれど……
そして、ランバは私に薬を盛っていた。わたしはその薬の影響をもろに受け、今まで感じたことの無い感覚をこの身に味わっていた。
そして、その感覚に最終的に身を委ね意識を飛ばした。
「私が覚えているのはココまでか……」
私が、とりあえず記憶の整理を終え、少し考えていると、部屋の扉が開きそこからメイド長が入ってきた。
「……あぁ、薫様!お目覚めになられましたか。」
メイド長は私を見ると、顔色を変え私の近くまで寄ってきた。
「あぁ……よかった、目が覚めないかと思いましたよ……」
「えぇっと……おはようございます。」
私はとりあえず……そう言った。
それから、メイド長に私はなぜここにいるのかということを聞いた。
すると、メイド長は私にいろいろ教えてくれた。
「では……」
メイド長が言うに、私は魔王によってここまで運ばれてきたらしい。
その際、魔王は傷だらけで私をメイド達に預けるとそのまま自室へと戻っていったらしい。
で、私がココに寝かされてからじつに3日立っていたらしい。
「この3日間、私達はどれほど心配したことでしょうか……薬に犯されすぎていましたから……」
そして、ランバに使われたいくつかの薬により私の目覚める確立がかなり低かったそうだ。
……そうなるとただの廃人になるところだったわけか。
私は少し体を震わせた。
「……では、私は薫様が目覚めたことを魔王様に伝えてきます。……一応、医者も呼びますので健診を受けてくださいね」
「あぁ、分かった」
そう言って、メイド長は私の部屋から出て行った。
それから、私はとりあえずすることが無かったのでそのまま寝ることにした。
□□□
私はまた夢を見ていた。
そこは草原だった。
周りには何もなく、ただ青い空と緑の草原が延々と続いていた。
そして、私はその草原の上にただ一人立っていた。
私はただ、その草原の端を見つけるかのように永遠とその草原の先を見つめていた。
それから、しばらくずっと見ていると、ふと隣に白い衣装を着た女性が現れた。
「……まだ、ダメ。貴方がしっかり認識できるようになってからココに来て。」
その女性は私に語りかけると私に重なるように消えていった。
……すると、私の意識が途切れていった。
□□□
私が目を覚ますと、ちょうど医者を連れてメイド長が来ていた。
「あ、起きましたか。」
「あ、はい」
私は体を起き上がらせ、メイド長を見た。
メイド長は医者にいろいろと言いながら、私に話しかけてきた。
「どこかおかしいところはありますか?」
「おかしいところですか、それなら……私の一人称の言い方が変わっていることですかね。」
「えぇっと?」
私は私が始めに起きたときの事をメイド長と一緒にいた医者に話した。
「起きた時にはすでに変質していたわけですか……ふむ」
医者は少し考えながら、私にいくつか質問をしてきた。
他愛も無い質問から、薬を使われた時の質問までされた。
「ふむ……おそらくですが精神が男だった時から変貌していると言うことではないでしょうか?」
医者が言うには、私に使われた薬によって、元々の精神構造が男だった所から体に合わせるように精神構造が変化したということらしい。
ただ、これはあくまで仮説、それに私は……少し違うんじゃないかと思っていた。
私は起きてから少しだけ引っかかることがあった。
私は寝ているときに夢を見ていたような気がする。
そしてその見ていたと思った、夢で何かあったんじゃないかと思ったからだ。
ただ、これも仮説に過ぎず私は一旦置くことにした。
それから少しして、私の身体検査が行われ、異常が無いと分かると医者は部屋から出て行った。
「では、私もこれで……」
そう言い、メイド長も部屋から出て行った。
□□□
しばらくして、私の部屋の扉が大きな音を立て開いた。
「うわっ!?」
「薫!」
その扉から魔王が入ってきた。そして、そのまま私の近くまで来ると魔王は私を抱きしめていた。
「あぁ……よかった、ほんとによかった。」
魔王はそう呟きながら私を抱きしめ撫でていた。
その状態が数分の間続き、私は少し心の内が熱くなっていた。
十分に私を抱きしめていた魔王が私から離れると、少し離れ頭を下げてきた。
「すまなかった。我がもう少し……警備いや薫を見ていれば」
「いや、いいって、私も油断したから……でも、それは受け取っておくよ」
私は、魔王からの謝罪を受け取りつつ自分の非も言っていた。
そして、数分見つめあっていると魔王が話し出した。
「……それでだ、薫よ結婚式の話だが」
「うん」
「……当分の間はしないという方針になった」
魔王はそう言った。
なぜなら、またこういうことが起きる可能性があるかららしい。
そして、魔王は私を救出した時のことを私に語った。
私は薬によって、魔王と戦ったらしい……その際、魔王は少し特殊な魔法を私に浴びせ私を止めたらしい。
それで、私が止まったの見て、私の周りに結界を張り、ランバを追いかけたそうだ。
だが、魔王がランバを見つけたときには体のあちこちから鋭利なもので突き貫かれている状態だったらしい。つまり死体だけがそこにあったみたいだ。
それを見た、魔王は周りを探査したところ誰も見つからなかった。
そして、それ以上やることが無くなったため私がいるところまで戻り、私と聖剣を担いで城まで戻ったらしい。
「……こんなところだな、まだあの夢魔を使っていた者が薫を狙う可能性があるのでな…」
「なるほど……分かった。」
「……さて、我もまだココにいたいがやることが残っている。退散するとしよう……」
魔王はそう言い、扉の近くまで歩いていった。
そして、部屋から出る直前に私のほうへ振り返り
「我が使った特殊な魔法の影響が出ているかも知れぬが……もう少しの間、安静にしておいてくれ。」
そう言い、部屋から出て行った。
それから、私は少しの間自分の体に触れながら、言われた通りに安静にしていた。
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