第2話 勇者、変わる

「ふぁぁ……いつの間にか寝てたみたいだな」

俺は、部屋にあるベッドから降り、寝る前に放り出した装備を一旦身につけようとしたが、

その装備は俺の身体にあわなかった。


「……んっあれおかしいなサイズが合わないぞ……」


おかしいと感じながら頭をかいていると目の前に赤い髪が横切った。


「……赤髪?俺は黒髪のはずだぞ。」


俺は、今横切った髪……つまり自分の髪の一部を見ながらつぶやいた。

それにしても、声がいつもより高い……風でも引いたかな?

とりあえず、この部屋には鏡があったはずだ。髪の色が変わっているのも気になる。

そう思い、俺はこの部屋に備え付けられていた鏡の前へと立った。


「……この鏡に映っているのは一体誰だ……」


その鏡に映っていたのは……俺ではなく赤髪の女だった。

とりあえず、手を振ってみると鏡の中の赤髪の女も振りかえしてきた。

……ま、まさかな。

俺は、その後いろいろ試した結果、鏡の中の赤髪の女も俺がしたことを鏡写しのように動いた。

結果で言えば、この鏡の中の赤髪の女は俺ということになる……


「……ハハハ、えーとつまり俺は女になってるということか。なぜだ……」


俺はその場で考えていると、部屋の扉が開かれた。


「おぉ、わが嫁よ。なかなか変わったではないか。」


……俺を女にしたやつ確定。

ということは俺は魔王に女にされたということか……

うん、殴ろう。


「歯ぁぁくいしばれぇぇぃ!」

「グヌゥ」


俺は魔王の顔面を全力で殴った。

結果、魔王は立っていた場所から、扉と反対側の壁にめり込んでいた。


「ハァハァハァ……とりあえず、気分は晴れた。

さて……なぜ、俺が女になってるかはなしてもらうぞ!」

「……た……よ」


壁にめり込んだまま話しているらしく魔王の言っていることはまったく分からなかった。

引っこ抜くかどうか迷っていると、……たしかセバスと呼ばれていた老齢の魔族がやってきて、魔王を引っこ抜いていた。


「魔王様、嫁様、お食事の時間でございます。」

「う、うむ……そうか、わが嫁とりあえず食卓で話そうではないか。」

「……まぁ、いいだろう」


俺もちょうどお腹が空いてきたころだったので、その提案に了解し、魔王とセバスの後についていった。


☆☆


俺達が、食卓につくとこの城で働いているメイド達がせっせと食事を持ってきていた。

そのメイドが持ってきた食事は……なんというかこう、懐かしい感じがする、日本の食卓なイメージのものだった。

簡単に言うと、白米に味噌汁そして卵焼きとそんな感じだった。


「……これは、また。」

「ふむ、口にあうかどうか分からぬが、あわぬなら言ってもらえると我もありがたい。」

「分かった。」


とりあえず、卵焼きから手をつけることにした。

……一言で言ってしまえばうまかった。

てか、俺が日本で食ったことのある卵焼きよりはるかにうまかった。

そのまま白米と味噌汁も食べたが、これまたうまかった。

文句の言いどころとか全然無く懐かしいとも感じれた。


「……うまい」

「それはよかった。うむ……では、なぜ女になってしまったか語ろうか。」

「あぁ、頼む。」


そして、魔王が語りだした。


「簡単に言えば、嫁は『男』という括りで我も『男』だから嫌だと言っておったろう」

「……そんな感じなことは確かに、言ったな」

「うむ、だから『女』にした。」

「はい?」

「つまりだ我はこう思ったわけだ、嫁は『男』同士が嫌ならば、嫁を『女』にすれば解決だと」

「……それで」

「さっそく、前夜性転換魔法を実行した。嫁が寝た後にな」

「……あぁ、うん、分かった。」


えーと、つまりだ……俺がまぁ、そもそも婚約自体反射的にはいとしてしまったが、実質いやだったわけで、どうみても男同士だし。

だから、まぁ、いろいろ昨日言ったわけだが……

それを魔王は俺を『女』にすれば万事解決だろうと思い、実行したってことか……。

ちなみに、なぜ魔王自身に使わなかった、聞いてみたところ普通に

(魔王は男と相場が決まっておる!)と言いのけたのであった。

ちまたでは女魔王とかも結構な数いるんですけどね、うん……

あ、ちなみに後で魔族の恋愛価値観を聞いてみた結果、魔族は『男』『女』では判別せずにそれぞれの魂の輝きで決めると言っていた。

性転換魔法も存在するので、性別問題はないらしい。


「ハァ……」

「どうしたのだ?」

「いや、なんでも」

「まぁ、この話はどうやら納得してもらったわけで、我は重要なことを嫁に聞き忘れていた。」

「なんだ?」

「うむ、嫁よそなたの名前はなんなのだ?」


……そういえばそうだった。

俺も魔王の名前も知らなければ、魔王も俺の名前を知るはずが無い。

お互いに名乗っていなかったからだ。

そして、お互いに名前も知らずに婚約したもといされたのか……

なんだかなぁ……


「ハァ……」

「うむ?」

「いや、なんでもない。で俺の名前か?俺は伊崎……伊崎薫だ。」

「薫か……うむ、良き名だ。」

「んで、お前は?」

「我はレイン=ドレイン。魔国の王として、そなたの夫になるものだ」


魔王改めレインは俺の前で高らかと宣言した。

まぁ、婚約したもといされてしまっているから間違いではないな、うん……

で、お互いのことをいろいろと知るもとい、レインは知ってほしいそうだ。

まぁ、俺自身恋愛感情まったくないしな。男だし……今、女だけど。

つまり、俺に好きになってほしいということだった。


「だが、婚約宣言はすでにしてあるからな。結婚式は数日後に行う予定だ。国をあげてやるからな。」

「……えっ」


俺にとって今日何度目かの驚がく的事実だった。


☆☆


それで、まぁ結婚式の話やら俺の扱いとかでいろいろと魔王が一方的に言ってきた。

でだ……現在


「それでは、結婚式用のドレスを作るため採寸させていただきます」


俺はメイド長とそのほか数名のメイドの魔族にドレスを作るための採寸をされている。

正直言うと、恥ずかしい。そもそも俺は昨日まで男だったわけで、女になった自分の体を改めて見るわけだ。

ボンキュッボンとまではいかないがメリハリのついた肉付きだった。

……うん、恥ずかしい。

とりあえず、それ以上自分の体を見ないようにされるがまま採寸されたのだった。

そして、数分後。


「はい、終わりました。こちらに新たな服を用意しましたのでそれにお着替え願えますか?」

「んっ……あぁ、分かった。」


……んっ、新たな服?

お、おう、どう見ても女が着るタイプの服だ……

いやまぁ……


「どうしたんですか?」

「あ、なんでもないです」


……しょうがない、着るしかないか。


「お似合いですね」

「アハハハ……」


……すごく体にしっくりきた


「では、こちらへ」


その後は、メイド長についていき自分の部屋として与えられた部屋へと連れて行かれた。


それから数日、特にイベントもやる事も無くゆっくりする日々が続いた。

しいて言えば、レインがいろいろと俺に自分のことを見せることが多かった。

そして、結婚式当日にあんな事になるとはまだ、俺は知るよしもなくただすごしていたのであった……。

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