<第二話> 「謎のお泊まりスタート」 その1
「ふぃー、ただいま」
「おかえりなさーい」
返ってきた返答にくたびれたスーツ姿のサラリーマンの姿がぴたりと止まる。
彼が顔を上げ、リビングを見渡すと、何故か自分の息子である俺の他になんと二人も年頃の娘がいることを認識した。
驚くのも無理はない。
なにせいつもは父子二人の男臭い家だ。それが帰宅したらなにがどうなったのか二人の美少女が増えているのだ。驚かない方がおかしい。
とはいえ、一人は気の強そうな明るい美少女だが、片方は全身からどす黒い不幸なオーラを漂わせて目が死んでる少女。相反するコントラストに戸惑うのは当然だ。
果たしてどうなるのか、と俺が見守る中、彼――我が父は俺の目を数秒見つめた後、突如として背筋を伸ばし、キリッとした表情を見せた。
「どうも、初めまして。祭介の父、
――この男っ! なんという身代わりの早さっ!
オタクであるこの俺とは違い、本質的にリア充勢たる父の挙動に感心する。
――っていうか、それでいいのか? リョナの方はともかくもう一人はどう見ても地雷女だぞ?
他人事のように見ていたら父はちょっと失礼、と俺の方へ身体を向けた。
「おい、息子よ」
がばっ、と肩に腕を回され、あっという間に部屋の隅に連行される。
「なんだ、我が父よ?」
「やるやないけっ! でかしたわー、ホンマでかしたでー、さすが俺の息子やでー」
目をきらっきらに輝かせながら賞賛の声をあげる我が父。ここまで褒められたのは生まれて初めてかもしれない。
「いや、これはなんというか不幸な事故みたいなものだから」
「バッカ! あんなカワイコちゃん二人も捕まえて不幸もクソもあるかいなっ! 明日はホームランやっ!」
どうしよう……いつになくテンションの高い父親が非常にうざい。
――いや、この人がうざいのはいつものことか。
薄幸そうな黒髪ロン毛の美少女は我が父の好みどストライクだろうな、とは思ったがここまでとは。
――とはいえ、薄幸の美少女が好みだったとしても実物を見たら物怖じするだろう、普通。
もしくは亡き母に遠慮するかと思ったがそんなことはなかったようだ。
「すいません、その、おじさま、ちょっといいですか?」
「はいはいっ! いいですよ? このカッコイイおじさまに何か用ですかっ!?」
即座にキリッとした顔と標準語に戻って振り返る父。
「えっと、改めまして私の名前は
「おおっ! 二人ともいい名前だね!」
びっ、と親指を立ててテンション挙げていく父。ほんとウザい。女の子の名前に全く動じてないし。
「ありがとうございます。
それで――あの、お願いがあるのですが」
リョナが口を開く。
そう、ここからが本題だ。
彼女達はしばらくウチに匿って欲しいと言った。けれども、その詳しい理由は一身上の都合により話せないという。
訳を聞かずに、ともかく匿って欲しい――そんな理不尽な話を受けられるはずがない。どれだけ都合のいい人間だと思われているのか。
しかし、幾ら断っても彼女は譲らない。家に上げたのが間違いだった。
そこで根負けした俺は――色々とめんどくさくなったので、家主の父を説得したらいいよ、と返事したのである。
我が父はチャラいように見えて締めるところはしっかり締める男。そう簡単には応じないはず……。
「なんでも言っていいよっ!」
俺の胸中を知らず、リョナの言葉にハイテンションで応える父。
「しばらく泊めて貰っていいですか?」
「オッケェェェェェェェイ! 全面的にオォォォルオッケェェェ!」
――マジかよ、このクソ親父。ノータイムで返答したぞ。
両手でガッツポーズを取る我が父に猫被っていたリョナもさすがに顔を引きつらせる。
男二人所帯だったから気付かなかったけど、この人、女の人にはここまで弱いのか。嘘だろ、おい。せめて理由ぐらい訊けよ。どう考えても訳ありだろうが。
――知りたくなかった、こんな父の側面。
「えーと、ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそありがとう。世界と君にありがとうだよっ!」
謎のダンディボイスで笑う父にその場にいた全員が対応に困った。
ひとまずリョナはすすすっと俺の隣に来て耳打ちをしてくる。
「……あんたと違ってきさくなお父さんね」
「アホなだけや」
嘘偽りのない本心を吐露する。我ながら生まれのバレる本心だ。
俺とリョナが話してる間に我が父はさささっと奈島さんの隣に移動していた。
「君の名前は紅蓮って言うんだって?
女の子なのにグレンとかすごくカッコイイねっ! すっごくいいよっ! おっぱいも大きいしとてもいいねっ!」
「……えっと」
ぐいぐいと来る父に出会ってからずっと世界が終わったような暗い顔をしていた奈島さんが困惑の表情を見せる。
「そう言えば君は何歳なの?」
「……早生まれで十五歳です」
「イエスっ! イエスっ!」
――何がイエスだ馬鹿野郎。
「………………リョーちゃん」
死んだ目をしていた奈島さんが遂に眉をひそめリョナに救難信号を送ってきた。
おそるべし我が父。この世の全てに絶望してなにがあったって誰かに助けを求めずに死んでいきそうな雰囲気の奈島さんにヘルプを求めさせるとは。
「えっと、ほら、おじさまっ! 晩ご飯にしましょう? 今日は私達が腕を寄りにかけて作りましたから」
「マジでっ!? 女子高生の手料理が食べられるとかおじさん幸せ過ぎて死にそう。
よし、食べようっ! 今すぐ食べようっ!」
かくて――、我が父の全面承認の元、リョナと奈島さんの同居が決まった。というか、決まってしまった。
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