3−3

 愛する子のような存在が出来て3年経ったが王の殺戮衝動が収まるわけでもなかった。相変わらず召使は次々と死にし、裁判にちょっかい出しては有罪を強要する。王に振り回されて裁判官も召使達も疲れ果てていたが、しかし怖くて怖くて歯向かう事が出来ない。

「有罪!」「ほらキミも有罪!」「慕われる理科教師だとぉ?むかつくから植人!」「有罪!」

 そんな王にも対等に話せる男が只一人いた。アルゲーノ公である。彼は、アルゲバ王4世の弟である。兄王は父譲りのヒゲの肥大漢で両眼が別々の方向を向いているが、弟のアルゲーノ公は痩せていてごく普通の中年の風貌をしている。

「兄王。お元気でいらっしゃいますか。」

 アルゲーノ公は時々城内で挨拶に回る。

「おお、弟よ。ぼくは相変わらずだ。」

「兄王、わたしは正直心配だ。王の後継いったいどうなされるのか。」

「お后さんすぐダメになっちゃうからなー。」

 その王の言葉に憤りかけたがそれを抑えてアルゲーノ公は涼しい顔で提案した。

「兄王よ、私は大海を旅し、奇妙な男に出会いました。海より向こうの南の島に、クローンと呼ばれる変わった技術を持つ男。人間の身体の一部から複数の同じ人間を作り出す事ができる、とのことです。」

「つまり僕を増やすのか。」

「はい、そうでございます。そうする事で王位を継続する事はできるかと思われます。」

「なるほどォ。それも悪い気はしないなァ。」

 王の言葉を聞いてアルゲーノ公はニヤリと笑う。


 その時、扉がバァンと開いた。


「王よ、ご覧下さい!」と言ってガチャガチャと王兵が何者かを引き連れた。

「宮殿を汚すんでないぞ。」

 王がそう言うと兵は敬礼をして言う。

「申し訳ございません。しかし、侵入者です。」

「ほう。その者、名前は何と言うンだい。」

 王が尋ねると侵入者である粗末な服装の、おそらく25歳ほどであろう男が叫んだ。

「名前も知るか!狂った王め!お前達の悪事をみんなばらしてやる!」

「ほう・・・。」

 王が睨むように言うと、兵がまた敬礼して言う。

「彼はおそらくレリビディウムの一員でございます。」

「レリビディウム。あの初代王の13使徒の名を借りて反乱するいまいましいやつらの事か」

「王、いかがなさいましょう。」

「・・・無法者をカーペットの中央に寄せろ。」

「・・・!かしこまりました。」

 兵達は何かを察したかのようにレリビディウムの侵入者を王室の赤いドクロの刺繍のされたカーペットの中央に寄せる。王座の、王から見て左側のレバーを王が引くと、たちまちカーペットのあった床が開いて、侵入者はその中に落ちていく。

「ああああああぁぁぁぁぁぁァァァ・・・・・・」

 ドサッという音。

 無音。アルゲバ王もアルゲーノ公も兵も穴の開いた床を見つめる。侵入者のあえぎ声が聞こえる。

「・・・いてぇ・・・俺をどうする気だ・・・絶対にゆるさねえ・・・」

 しばらくして、ズズズ、ズズズと斧を引きずる音が床穴から徐々に聞こえてきた。王は悦びが抑えられないらしく笑みがどんどん広がっていく。ズズズ、ズズズ。

 斧を引きずる音が止む。しばらくして侵入者が「え、ちょっと、わ、うぉ」と叫び、しばしの沈黙の後、「あああぁぁぁ!うわあああ!いああああ!ぎゃああああ!」と何度も悲鳴を上げるのが聴こえた時に王は最大級の満面の笑みを浮かべた。暫くしてガフッという金属質の音が聞こえ侵入者の悲鳴はすぐに止んだ。そして斧を引きずる音が聞こえる。アルゲーノ公は床穴を見つめている。

「悪事が次々と暴かれるとあったが、城で何か荒らされたのかい?」

 王が笑みを抑えられないまま兵に訊ねた。

「どうやら、植人の記録を荒らし回られたようです。複数の人に侵入された模様。」

「なるほどォ・・・。じゃあ警備を強化しよう。」

「はっ。」

 しばらくして王室の後ろの部屋でドアが閉まる音が聞こえたので王は言った。

「ご苦労。わが子よ。そいつはコレクション・ウに飾っておいてくれ。」

「コレクション・ウ?」

 アルゲーノ公は尋ねると王は言う。

「あの子は面白い力を手に入れた。だから、コレクションすることにしたんだ。希少価値に基づいて"エ"と"ウ"と"ニ"の3つの番号に分類した。ニが一番イイ。」

 よくわからない。アルゲーノ公は何となく忌まわしい気配がしたので黙る事にした。(あれが噂に聞く処刑人か・・・)と呟きかけた時、アルゲバ王の声が聞こえた

「そうだ、弟よ。」

 アルゲーノ公は振り返る。

「その、複数の人間を作る男とやらはどうしたら会えるんだイ?」

「彼は世捨て人で島に引きこもっていますので・・・王の方が直々に会いに行かないといけません。」

「なんだ面倒だなァ。仕方ない、一日休暇をとるか。」

 傍にいた召使が安堵のため息を付きかけて抑えた。

「そして、島を案内してくれ。」

「それは勿論。」

「今日はアルゲバ・ワインでも飲まないか弟よ。」

「いいですね。」

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