2−4
「アルゲバ王1世は発明家でありました。」
初老の男性が教科書を読みながら教室を練り歩いていた。歴史教師マルーツェルである。
「テラミカ石板、そして、それを基盤として動く自動人形、いわゆる植人を発明されました。アルゲバ王1世は植人によって支えられる国家をめざし、有志である一三人の使途と多くの支持者と共に故郷を離れて新しい王国を建国致しました。それが、この私達のアルゲバ王国です。」
ジョーはマルーツェル先生の話を聴きつつクラスの人々を観察していた。フルネスはニコニコ顔でメモを取りながら聴いている。メラマは窓の外を見ている。タルヒは退屈そうに頬杖を突いている。これで、昨日食堂で知り合った人全員だな、と思ったが、ベルーイを発見した。ベルーイはにへら顔でどこから持ってきたのかリンゴを撫で回している。怒られないのかなと思ったが教授がベルーイの見える位置になると動きを止めて目立たないようにしていた。教授の視力が悪いのを知っているのだろう。ベルーイの二席後ろに昨日食堂でベルーイに着いて行った小男がいた。相変わらず自信なさそうである。彼の名前は知らない。
「王国の理想は、人が肉体を離れた機械として生き、究極の完璧な国家を作る事。神のいないこの国家では、機械となって国に従事するのは栄誉でありました。それがアルゲバ王1世の・・・」
「先生。」
誰かが手を上げた。
「何かね、ベルーイ・モルデンネスくん。」
マルーツェル先生が読み上げる名前に驚いてジョーはベルーイを見た。
「今は罪人が植人にされる事になっているので正直驚いたのですが、昔は栄誉だったのですか?」
「そうですよ、ベルーイ。最初はそうでありました。植人になりたいと志願し、王の与える厳しい試験を合格した後、無事に植人としての栄誉を授けられる。ですが、1世が崩御し、2世となった時に問題が大きくなったのであります。国民は増え続ける一方、植人の志願者がどんどんと減っている。そこで試験を簡単にしたのだが、それでも減ってきている。」
「減った原因は何ですか?」
「恐らくは、月日が経ち、移住者が増えた事によって、王の崇高な理念を理解できる人がいなくなってしまったからです。ゆえに植人の生産数が足りていないのは早急に解決する必要があった。植人も決して永遠に働けるわけではない。彼らの動力源であるテラミカ石版は使っていくうちに磨耗するので、いずれ深刻な植人不足に悩まされるであろうから。」
先生は咳払いをした。
「そこで先代の王アルゲバ王3世が奇策を出しました。志願制は非常に高度な植人に限定し、簡単なものは、逆に"刑罰としての植人"を新たに作ってしまいましょう。何せ、移住者が増えて犯罪も増えて困っている。そこで犯罪の取締りに植人にして更生しなおす、そうして植人の崇高な意義を問い直しましょう、と提案したわけでございます。
「こうして植人は急激に増加し、今の私達の安定した暮らしが得られるようになったのでありました。とまあ、これが全体の概観でございます。」
マルーツェル先生は教科書をめくる。
「次のページをご覧下さい。」
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