2−5
同級生らは歴史教師マルーツェルはつまらない人間だと評判が悪かったが、科学教師ウーラムは人気者であった。
「おはよう、生徒諸君。」
「おはようございます、ウーラムさん!」
生徒が元気に挨拶する。
「おお、皆元気でいいね!」
「だって、ウーラムさんの授業楽しいもん!」「もっと沢山受けたい!」
生徒達が口々に言うのでウーラム先生は頭掻きながら言った。
「いやあ、そんな事言われたら照れてしまうよ。でもありがとう。さて、」
ウーラム先生は言う。
「今日はいよいよ、魂をテラミカ石板に移植する実験を見せる。といっても君達にはしないよ。このオオプルネンゲくんに実験体になってもらう。」
と言ってオオプルネンゲと呼ばれる紫のやや大きい甲虫の入った虫かごを取り出すと女生徒の悲鳴が聞こえた。
「大丈夫大丈夫。このオオプルネンゲは麻酔してあるんだ。動いたりはしないよ。」
そういってウーラム先生はオオプルネンゲをセラミックのシャーレの上に乗せる。
「テラミカ光線銃は危険なものだから、今君達は扱えないよ。言っとくけどこれは厳重に保管されているから盗もうと思っても無駄だよ。さて、これを設置するからすこし待ってね。」
ウーラム先生はスタンドを設置し、その上にしずく型のおそらく小型のものであろうテラミカ光線銃を設置する。スタンドの下にオオプルネンゲの乗せたシャーレを入れ、透明な防護板をスタンドの足と足の間にあてはめる。しずく型の頂点はキャップになっていて、円錐状のその蓋を外し、中に黒い球形の何かを入れようとする。それを見てジョーは思い出す。洞窟でケーリー兄が教えてくれたこと・・・"人間固有に持つ魂を、一端黒い球体のカプセルに封じ込める。両手の平で包み込めるくらいの大きさだよ"・・・それを思い出して思わず声を上げる。
「あのカプセルにテラミカ石板が入ってるのか!」
教室は静かになり、自分でも驚いてジョーは口をつぐむ。それを聴いたウーラム先生はニコリと微笑んだ。
「その通り、よく知ってるね。ジョー・プラーシックバウエ、くんだっけ?」
ウーラム先生に呼ばれて一気に生徒の注目が集まったのでジョーはしどろもどろになった。
「はい・・・。」
「君の兄さんのケーリーは僕の後輩だよ。優秀なお兄さんじゃない。」
「ああ、うう、ありがとうございます。」
誉められているにも関わらずジョーはなんとなく気分が暗くなった。
「さて、そうだそうだ、これがカプセルに入ったテラミカ石板。」
ウーラム先生が黒いカプセルを開けると複雑奇怪に線が張り巡らされた板が入ってあるのが見えた。板は黒色に金の縞模様があった。
ウーラム先生はカプセルを閉じて、テラミカ光線銃の中に入れた。そしてレバーを下げる。がちゃりという音がした。
「今のは、単なる位置確認のための撮影ね。仕組みは簡単に言うと、光線銃に搭載された撮影機から、数回、目に見えない撮影光線を当てて、モノにあたると反射し、その光線が再び撮影機に投影される。光にも速さがあるから、微妙に投影のタイミングが変わる。そうしてこのオオプルネンゲの姿形を3次元的に捉えるんだ。」
さすがに生徒達には意味が分かってなかったようで、あわててウーラム先生が言った。
「ごめんごめん、ちょっと分からない説明しちゃったね。まあ興味があったら図書館でで読んでね。それで、今からテラミカ光線を当てる・・・植人は魂を人形に移植する技術と一般的に言われてるけど、テラミカ石板が欲してるのはこのオオプルネンゲの、魂、だけじゃない。肉体も必要なんだ。魂と肉体は一緒に支えあっているというのが偉い学者のご意見で、つまり、オオプルネンゲの身体から全部の情報が必要でね。」
スタンドが光りだしていた。
「だから光線が当てられると消えてしまうんだ。」
パンという音と共に強い閃光がして、消えた。手袋を着けたウーラム先生はスタンドの下からシャーレを取り出す。オオプルネンゲの姿は無く、シャーレに黒く広がった痕が残っていた。
「さあて、ではカプセルをお見せしよう。」
ウーラム先生は光線銃の蓋をまた外して、球体のカプセルを開けた。生徒達は息を呑んだ。カプセルの中のテラミカ石板の金の縞模様だった部位が青く光っていたのだ。
「この青い光が、オオプルネンゲの魂が入ってる証拠となる。しかしこのカプセルに入ってないとテラミカ石板の魂はすぐに拡散して無効化してしまう。だからこうやって丁重に保護している。」
ウーラム先生はカプセルの蓋を閉じて机の下から四足の人形を取り出した。
「オオプルネンゲぐらいの魂なら多少動く事ぐらいはできるはずだ。見てごらん。」
四足の人形の胴体にカプセルを押し込む。すると人形はプルプルと震えてゆっくり前に動き出す。
「おおお!」「スッゲー!」「なにこれー!」
教室は歓声に包まれる。みんな興味深々で四足の人形を眺めている。
「これが、植人の基本的な仕組みなんだ。さて、教科書を読んでまとめに入ろうか。」
ウーラム先生は教室の楽しそうな光景をみながらニコリと笑った。
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