2−3

「ジョーくん、昨日は大丈夫だった?」

 翌日、フルネスが話しかけてきたので、ジョーは答えた。

「大丈夫だよ。」

「本当に?」

「うん。」

「またベルーイのやつから嫌なこと言われたら僕がガツンと言ってやるから。」

「ベルーイくんのことは全然気にしてないよ。」

「そうなの?・・・あ、プルネンゲがいる。」

ジョーの肩にプルネンゲと呼ばれる紫色の小さな甲虫が止まった。ジョーはにこやかに笑ってその甲虫を手に載せて木の方に移す。

「ジョーくんは心優しいんだね。」フルネスは言う。「虫なんてパッパと追い払ってしまうものなのに。」

「不気味だからって、力の弱いものを、強引に押しのけるなんて可哀想じゃないか。」

 ジョーは言う。

「彼らだって、彼らなりに生きたいんだよ。」

「そうね。」

 フルネスはプルネンゲが木の葉の間に隠れるのを見ながら言う。

「ひょっとして、そのオバケが、植人にされちゃった事が悲しかったの?」

 ジョーは黙る。フルネスはあわてて言う。

「あ、ごめんね。」

「その通りだ。」

 ジョーは言った。

「誰もあのオバケに話しかけようともしなかった。僕も、怖かったけど、次の日こっそり洞窟に行って探したんだ。でも見つからなかった。悲鳴を上げちゃったから怯えて隠れたのかもしれない。それとも、もう連れ去られたのかもしれない。」―ペーヴェやケーリーが、王政府に通報したのかな、と言う思念がジョーの頭を過ぎった―「もしかしたら彼が国軍につかまったのが僕が騒いだせいかもしれなかったのだ・・・。」

「大丈夫だよきっと。」

 フルネスは言う。

「そのオバケは、奇形で山に追いやられた人間なんだろう?植人になったことで、むしろちゃんと働けて、幸せだと思うよ。」

「は?」

 ジョーが突然声を荒げた。「あんな人間らしさを奪う人形にされて嬉しい奴がいるのかよ。」

「・・・ジョー?」

 フルネスの不審そうな声にジョーはふと我に返った。そうだ、この違和感、この怒りを抱いているのは現在自分だけなのだ、とフルネスの不思議そうな顔を見て思いつめた。

「ごめん、ごめんよ。」

「いいよ。」

 フルネスはにこりと笑った。本当に害のない素直な人間で羨ましいな、とジョーは思った。ここには、羨ましい人間が、多い。

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