1−5

 率直に言うとジョーはこの儀式にどこか嫌悪感があった。なんだか心が死んでしまいそうな気がしたからだ。だからか若干椅子にドカッと座った。

 「それで、ケーリーは王国大学の準備はどうなんだい?」

 さじを持ちながらアルナが言った。

 「ああ、なんとか進めていってるよ。論文が必要なので今資料を集めている所。」

 「そうか。ジョーはどうだい?」

 ジョーは戸惑った。

 「どう?」

 「なんかやりたい事とか決まったかい?」

 ケーリーがその時家族から視線を逸らすのがジョーには見えた。

 「うーん、無いよ。」ジョーは溜め息をついた。

 「お前も早く見つけなさいよ。ケーリーは長男だからお父さんに倣って機械整備士になるために大学に行くんだけど、お前は機械には弱そうだからね。」

 「うん、まあ、うん。」

 あれ、秘密基地では植人がどうとか言ってなかったっけ、と思ったが恐らくケーリーは親に嘘をついているのだろう、とジョーは察した。

 「まだ焦る事は無いよ。」

 ペーヴェがにこりと笑った。

 「とりあえず来年は共通学校に入って、いろんな人と出会うとイイ。きっといい刺激になる。」

 「ありがとう。」

 ジョーはそう言いながらさじで煮込みを掬うが、その赤々とした姿が洞窟のオバケを想起して何となく食欲が沸かなかった。だけど食べなかったら母アルナが悲しむに違いないと思ってパクリと食べる。そうするとやはり味わいが美味しいのでなんとなく気分がスッとする。

 「おいしいよ、ママ。」

 「ありがとう、ジョー。」

 アルナは嬉しそうにジョーに答えた。

 奇形のオバケといい、植人になる悪人といい、どうもこの国の人たちは冷たいな、とジョーは寝床で考えていた。自分が同じように接する事ができないと、すぐに隔離したがるのか。自分は食前の王の挨拶が嫌だけど、ウソをつくのも本当は嫌いだ。そのままでいたらそのうち自分も皆から弾かれて、「悪人」のようになってしまうかもしれないなあとジョーはすこし悲しい気分になっていた。思い返せば植人だって挨拶だって王政府の作り出した制度なのだし、王の制度の中で生き辛い自分はそのうち植人にでもされてしまうのかなあと感じた。この感触をジョーは後にも度々味わう事になる。

 でもあと少しで学校に入るんだ。そうしたら何か変わるのかもしれない。誰か何かと出会って、自分は王国で生きても大丈夫なんだ、という確信が得られるかもしれない。

 そう思ってジョーはなんとなく安心してスヤスヤと眠りに入る。


 「号外!号外!」

 翌朝新聞屋が叫びながらなにやら紙をバラまいているのが窓から見えた。

 「大変なニュースだよ!」

 何事かと思ってジョーは朝早く外に出て、地面に散らかってる新聞を拾った。ジョーは目を丸くした。そこにはこう見出しが書かれていたのである。

 「アルゲバ王3世が急死、息子の4世が王位継承。」

 見出しに書かれた4世は、肖像画に描かれていた3世と非常に似ていた。しかし政治的変化はジョーにとってはどうでもよかった。いずれにせよ、この世がどうなるのであろうと、王政府は王政府、平民は平民ただ生きて死ぬには変わりないのだし、自分の生き辛さがこれによって変わるとは、ジョーには何となく思えなかった。王はいいよな、とすこしムシャクシャしつつも、一応家族にとって大事なニュースなのでジョーは新聞を食卓の上に目立つように置いておいた。

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