1−4

 プラーシックバウエ家は暖かく穏やかな家族だ。父ペーヴェは飛行機の整備を、母アルナは服の裁縫をして生活費を稼いでいる。

 「ただいま。」「ただいま。」

 ケーリーとジョーが家に帰ってきた。アルナは煮込み料理を作っていた。

「お帰り、坊や達。またあの怖い洞窟行ったのかい?」

「うん、ママ。本当にオバケがいたん・・・」

 ジョーが言いかけた時ケーリーが肩を叩いて、おい、それは言わなくていいだろとでも言いたげにしかめっ面をした。

 「オバケ?」

 「なんでもないよ母さん。」

 ケーリーは苦笑いする。

 「やっぱりオバケはいたんだなぁ。」

 と父のペーヴェが食卓にずんずんと歩きながら快活に言う。

 「怒らないよケーリー。それより、オバケって何だい?ぼく気になるよ。」

 「またペーくんの悪趣味ね。」

 母アルナがくすりと笑いながらメノコという茸を鍋に入れた。

 「父さんもオバケの噂は知ってたのかい?」

 ジョーはペーヴェに聴いた。

 「そりゃあもう若い頃からあったよ。」

 「秘密基地で喋ってたらオバケがこっち見てたんだ。」

 「ほう、そんな近くまで見れたんだね。どんな顔してた?」

 「オバケはねえ、本当に怖い顔してた。」ジョーは一生懸命話した。「真っ赤っ赤で歯がみーんな尖がってたの。目も真っ白だった。」

 「ああ、それは奇形の子かな。」

 「奇形?」

 「城下町の商店街の反対側に植人に必要なテラミカ石版を製造する工場街がある。なぜ反対側かというと、工場街は有毒なガスを出しているとのことだからだ。」

 「ペーくんはホント博識ね。」アルナは机に皿を並べながら言う。

 「僕も手伝うよ。」 ケーリーが席を立ってアルナの元に行く。

 「それでそれで?」

 ジョーは食卓に座ったまま父ペーヴェに訊き、ペーヴェは相変わらずズレやすい眼鏡を直しながら話を始める。

 「それで、例えば妊娠中にそのガスを吸いすぎると、時々びっくりするような赤ちゃんが産まれてしまうこともある。この事を知ってる人は少ないみたいだが・・・ジョーの言った顔というのは他にも似た症例があってね、洞窟の子もきっとそういう子なんだろう。でも、オバケがでたって噂父さんが若い頃だから、20年くらい洞窟で生きてたんだなあ。たくましい。」

 「オバケをここに住まわせたりはできないの?」

 「いやいや。家にはそんな余裕は無いし、オバケも嫌がるかもしれないよ。洞窟でそれなりにネズミでも魚でも食べて生きていけてるし、そっとしてあげれば。」

 「うーん、わかった。」

 「ほらほら二人とも、ご飯ですわよ。」

 アルナは面白おかしくペーヴェとジョーに呼びかける。いつのまにか盛りだくさんの夕食が並んでいた。赤々としたブランジェとメノコの煮込み、黄味がかって香りのいいテラ米、茹でられたブラム卵のサラダ、アルゲバ葡萄のワイン・・・これは子供には飲めないので代わりに葡萄ジュースがあった。

 「では食前に王に挨拶をしよう。」

 ペーヴェは家の隅に飾ってある肖像画を見る。アルナも肖像画を見る。ジョーとケーリーも見る。王は巨大な口ひげを湛えた肥大漢で、両眼があらぬ方向を見つめている。

 その肖像画を見て、ペーヴェが威勢よく唱える。


 「アルゲバの王よ、今日も私達をお許しくださり、感謝します。私達はこれから夕飯時とします。アルゲバの王よ、貴方の代が永久に続くことを!」


 そして家族が一斉に右手で左手の平を2回打つ。

 「さあ、食べ始めよう。」

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