家編
1−1
城下町のすぐ外の、山の斜面の田舎の村に、プラーシックバウエ家は住んでいた。そこの兄弟、ケーリーとジョーは、幼い頃はとても仲良かった。兄がケーリー、ジョーが弟である。二人は対称的な性格であり、ケーリーは冷静沈着、ジョーは直情的であったという。
ジョーの暴れん坊振りには親も兄も心配していて、何か出かける時に気が休まる事は無かった。彼は夢中になるとすぐ家族の事など忘れてそっちに向かって駆け出してしまう性格なのだ。ジョーからすれば単にそれは興味本位に色々な事に関心があるだけに過ぎず、自分が激しい気性である事を自覚などしていなかった。
「ケーリー、ねえ、ケーリー。」
ジョーがケーリーを呼ぶ。二人は城下町の商店街で買い物に出かけていて、巨大な赤い根菜を見てひどくはしゃいでいる。
「みてよ!ケーリー、オルレリナだよ!でっけえし、かっけえ!買おうよ。ねえ、ケーリー!ねえ!」
「何言ってるの。ジョー。」しつこくせがむジョーにケラケラ笑いながらケーリーは言う。「これはお使いの中に入ってないし、こんな大きなものを買ってしまったら、家族で食べきる前に腐ってしまうよ。」
「そんなあ。」
「さ、ブラムの卵を見つけてくるんだ。ジョー。」
ジョーはふてくされながら、まったくケーリーはつまらない人間だとぶつぶつ呟いて辺りを歩き回る。ブラムは卵をよく産む大型の爬虫類であり、程よい塩気と爽やかな香りからここアルゲバ王国で定番の食材として親しまれていた。ジョーは隣の隣の魚売り場で卵があるのを発見し、ケーリーに報告しようとした時、ふとあるものが目に留まる。
薄茶色の人間サイズの人形が壁に沿って立っていて、人々が彼の口に郵便はがきを押し込んでいる。その人形には無表情の仮面が張り付いている。両腕が腹の中に突っ込まれており、ジョーがよく見ると腹の中で手が動いているようだ。郵便物の中に手を動かしているという事は、推察するならば、郵便物の分別をしているという事であろう。ホワイトマスクがただ無意味に前方を眺めながら郵便業務に励む人形を見て、ジョーはなんだか物寂しい気分になった。時間があっという間に過ぎ去っていった。
「あれはね、植人と言うんだよ。」
ふいに背後から声が掛かるのでジョーが驚いて振り向くと、ケーリーであった。
「ウンと悪い事した人が捕まって、もうどうしようもなくなったら、こうして国が最後の手段として悪い人の魂をあの機械に入れて、働かせるんだ。」
ジョーはなんだか悲しい気持ちになった。
「そうなのかあ。」
「うん。それで、卵は見つかったのかい?」
「ああ、うん。ここ。」ジョーは卵のある店に指を指す。
ケーリーがブラムの卵を買いに行くのに着いて行きつつも、ジョーはあの郵便受け代わりの植人をチラチラと見ていた。植人は相変わらず口を開けて人々を待っている。ただひたすらに・・・。
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