ボーイミーツガール アンド ホープの書 3ページ
「お待たせしました。……何かありました?」
「いえ。ちょっと気になる本があったので。これいただきます」
「?? ええ、どうぞ。結局その本美味しいお酒作れなかったので捨てようと思ってたのでちょうど良かったかもしれないですね」
朗らかに話す村長とは打って変わって、動揺を隠そうとルベルは平静を装うのに必死だった。その必死さにロッソも今は聞くべきでは無いな、と口にしようとしていたことを取りやめた。そして話題を変えるかのようにその白い本に話題を移した。
「で、村長さん。その白い本なんなんだい?」
「そうそう。魔導書、あったんです」
「本当ですか?」
「マジか」
それに村長は嬉々として話す。
それも当然だろう。きちんとした、相手としてはこれ以上にない報酬を贈れるかもしれないのだから。
そして興味本位でロッソがその白い本を手に取って中身を見る。本当ならルベルが一目散で行くのだが、やはりその本の衝撃が大きかったのか。一足遅れる形になってしまった。むしろそれほどにその本の衝撃度があったのだ。
「おいおいお前が見ても分からないだろ」
「良いじゃねーか。どんなのか気になって……気になって……」
笑って見始めたロッソだったがページを開けば開くほど怪訝な顔になっていく。
「魔導書か、これ?」
そしてロッソはバラバラとルベルの前で全ページを開いて見せる。
それにルベル自身も驚愕の表情を見せる。
それもそのはずである。
全部まっさらなのだ。
表紙だけでない。
ページも何もかもが真っ白なのだ。
「村長さん?」
ロッソが村長を見ると村長も不思議そうに頷く。
「いえ。確かに不思議なんです、それ。例えばこのペンで書いてみてください」
村長がロッソに一つ羽ペンを渡す。その先にはしっとりと墨がついている。
そしてロッソも適当に文字を書こうとしたが、書けないのだ。
何か水に墨を落してるように墨が紙に入っていかずただ水滴と成った墨が本の上に残り霧散する。
「確かに普通じゃないな」
ロッソもその不思議さに驚きの表情を見せる。
「持っていた者に聞くと代々困った時、魔導士さんに渡せばきっとこれを報酬に解決してくれるからと言われていたそうで。私が訪れた時ようやく思い出したそうで」
「なるほどね。で。魔導士にしてグリモアイーターさん、どう思う?」
ロッソと村長の目がルベルに向く。
多少気恥かしい気持ちもあったが率直な意見を言うしか無かった。
「なんだか分からないってのが素直な反応。おそらく暗号なんだろうけど」
「暗号? 何もないのにどうやって読みとくんだ」
「邪眼って分かるか。まあ他にも目にまつわる魔術、器具、魔法、特異体質、モンスターとかはあるんだが。例えばバジリスクの」
それにすぐさまロッソの拳がルベルに飛ぶ。
「それ長くなるフラグだから止めておこうな」
「だからといって暴力で止めるな。まあそういった眼が特別なのがあって、それを介すれば文字が現れるとかが一般的な感じだと思うんだ」
「なるほど。そういった鍵があればそこに文字が」
「一番多い種類の謎の解きの方法だ。もしかしたら別の方法かもしれないけどな。ロッソ。ちょっと貸してくれないか」
「ああ。どうせ俺じゃ分からねーからな」
そう言ってルベルはその本をロッソから受け取ろうとした。
自分でも見てみたいと思ったからだ。
そう、たったそれだけ。
だがそれで世界が変わった。
大きな、それこそこのルベルが生きているこの世界の体系という意味では何一つ変わらない。ルベルの住む国としても何一つ変わらない。
けど確かにその本との出会いがルベルの生き方を変える。
そう、突然の出会いを現わすかのように書斎に突風が舞い上がる。
人が立っていられるのもやっとなほどの風がルベルが受け取った本から湧きあがるのだ。
そして風が納まると本は無くなっていた。
「何が……起きたのです?……」
村長はその有り得ない光景にただただ驚くだけだ。
「俺の魔術とは全然違うな」
ロッソはその起きた事柄を冷静に理解しようとした。
だがロッソの知識内にこれを説明できるだけの知識はなかった。
本は無くなった。
しかし本のあった所には 少女がいた。
起きたばかりのように薄眼を開けボーっと立つ少女。
枯草色の長い髪を黒いリボンで纏めて、ボーっとした頭が揺れるたびに尻尾のように束ねた髪を揺らす。
そしてセーターにプリーツスカート、黒ストッキングというよくある服装の中でひと際異彩を放つのが赤いマフラーだった。長い、それこそ二股に分かれ巻かれているというのに地面に着きそうなほど長いマフラーをした少女がいたのだ。
そしてさらに意外だったのがルベルの行動だった。ルベルが女性の右胸を揉んでいたのだ。
だがルベルは放そうとしない。それはいやらしい気持ちがあるわけではない。 むしろ何も考えることが出来ていなかった。
本が人となった。
その事実に驚き、信じられず目を丸くして手を放す事すら忘れているのだ。
ただ確かに持っていた右手は少女の胸を触っている。あの固い本の感触が今では柔らかい女性の肌の感触となっている。
すると女性がゆっくりと目を開ける。それはまるで目覚めるかのような徐々に覚醒していくように。
そして事の状況が分かる。分かると同時に手が出ていた。
「きゃあああああ」
「ぐうぉ」
叫び声とパチンという乾いた音、そしてくぐもった鈍い声が一緒に響く。少女のビンタがルベルへと飛んだのだ。
そして女性はルベルから離れるや胸を手で隠し、ルベルに対してギロッと警戒の目を向ける。
「何よあんた。いきなり人の胸を揉んで。しかもこんな建物に連れ込んで。変態!!」
グリモアイーター 村人Y @villageman-Y
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