ホットスプリング村の怪奇の書 4P
ルベルとロッソがさらに一歩畑に入る。
荒らされ続け、休耕期ということもあって他より柔らかい土があるというだけで足が取られそうなものはない。
戦いやすい場所と言える。
「ロッソ。お前はまず一体をバラバラにしろ」
「経費高く付いちまうけど」
「人命には代えられないさ」
「了解」
ルベルの指示にロッソは笑って見せる。
そして先ほど包丁を取りだした巻物と同様、腰から巻物を取り出し、そして顕現させる。
出て来たのは鋼鉄の棍。
「ルベル、あいつ回復するって言ってなかったけ?」
「回復というか修復だな。ただ修復するスピードに限界があるからとりあえず一体を粉微塵にして、その間2体を潰すぞ」
「えらく簡単に言うな……」
「それぐらい楽勝だろ」
「やれやれ人使いの荒いマスターだ」
そしてルベルとロッソの目が一層険しくなる。
ついに出て来たのだ。森から3体のゴーレムが。
それぞれがそれぞえに距離を取っている。だがそれぞれがフォロー出来なくもない絶妙な距離だ。
戦略か、戦陣か。偶然か。
そもそもゴーレムに知能があるのか。もしないとしたら遠隔操作の可能性は。
ルベルは色々と思考をめぐらす。
予測通りなら、ただ偶然3体が居合わせたことになる。
しかし最悪の場合、この3体がそれぞれに意思を持っている場合だ。
そういったゴーレムがないわけではない。
「一応聞いておくけど、今のところ予測の狂いはあるか」
「聞いているより大きいってところぐらいかな? 後は分からん。とりあえず右のゴーレムに風穴開けれるか」
「やってみるさ」
そう言うとロッソは駆けた。
五体が自慢というだけあり、その脚力はまるで風になったかのよう、そしてその腕力たるや。
ガチャン
まるでガラスを落したかのような音が鳴り響く。
一瞬にして右にいたゴーレムの胸を鋼鉄の棍が貫いたのだ。
「そのまま右に薙げ」
「っしゃ」
その指示そのままにロッソは棍を右に薙ぐ。ちょうど左肩まで貫通し破壊する様な形と成った。だがゴーレムに苦しむ様子はない。
そこまでするとロッソは一時戻った。
「一応予測通りのゴーレムの構成物質ってことでいいのか?」
「そんな感じだな」
二人は穴の空いた箇所を見る。
予想通り。土の人形だが中は空洞だ。
さらに中からボウボウと炎が漏れ出ている。
これがこの奇怪なゴーレムのタネだった。
「助けようと動きもない。気にする様子もない。遠隔操作の作戦とも考えられるけど、そうは見えないからやっぱり意思が無く偶然現れたと見て良さそうだな」
ルベルは先ほどの攻撃からゴーレム同士の関係性を見た。
ルベルの推論にロッソは疑うことはなかった。
反論もないと分かり、ルベルは作戦通りいこうと考える。
「んじゃまずは一体罠にはめるぞ」
「それまでにこっちは一体を粉微塵か」
そして二人は動いた。
ロッソは先ほどの動きと同じく、緩慢なゴーレムが捉えら得れない早さと威力で右側のゴーレムを粉微塵へとしていく。
一方ルベルは腰より短剣を抜く。そしてゴーレムの方へ駆ける。一応魔法使いと分類されるルベル。その魔法使いというカテゴリーではまだ体術としては上の方だが、戦士職、それこそ武器を持ち戦う人たちに比べれば下の上。甘く見積もって見習いぐらいの動きがやっとだ。
それでもこの緩慢な動きしか出来ないゴーレムには十分なほどだった。
自分が囮となって落とし穴に導く。ちょうど真ん中のゴーレムを誘い出す。
「どりゃ!!」
その叫び声が最後に右のゴーレムは足から上は完全に粉微塵に砕け散った。
これで甦るのだから厄介だ、とロッソは思うがそれも一瞬。
「そっちはどうだ」
「意思がないからな。簡単にはまってくれそうだ」
その言葉から数秒。轟音が鳴る。
そう。ゴーレムが深さ4メートルはあるかという穴に落ちたのだ。
「ロッソ」
「あいよ」
その掛け声に合わせ、ロッソは腰からまた一つ巻物を取り出し、顕現させる。出て来たのは爆薬を詰めた筒。
それをルベルに手渡し、ロッソはそのままもう一体一番左にいたゴーレムへ駆ける。その間、先ほどまで使っていた棍を棄てる。見れば棍はボロボロで、先などグニャグニャと曲がっている。それを当然と見て、ロッソはもう一本棍を顕現させる。
ルベルはその爆薬に火を付け、穴に落ちたゴーレムへ投げる。
その威力は凄まじく地表部分まで炎が現れるほど。
ロッソが「配分誤ったかな?」と首を傾げるほどだったが「十分な威力だ」とルベルは笑う。
そしてゴーレムは穴の中で粉微塵に粉砕された。それはルベルの作戦通りだった。そもそもロッソの棍の威力で破壊が確認できたからこそ、作戦の変更をしなかったのだ。さらに事は作戦通りに進む。爆薬の衝撃が地面を揺らし、穴の周りの土を崩しゴーレムを地面に埋めたのだ。
「よしっ。そっちはどうだ」
同じ手筈でロッソもまたゴーレムを穴に落とし、爆薬を投げ入れ、地面に埋める。
「こっちも終わりだ」
「さすが早いな」
「本職だからな」
そして二人は最後の一体を見る。
修復はまだ途中だが、すでに腹のあたりまで終わっている。驚異的な修復力と言っていいだろう。
そしてやはり中は空洞で、空洞からは炎がボウボウと溢れている。
「んじゃ最後も」
「いや。実証したい。この土で本当に出来るか」
「マメだな」
「俺達がいなくなっても出来るかの実証でもある」
「そうだな」
そう言ってロッソはその空洞に畑の土を投げつけた。
投げつけると言ってもゴーレムを破壊する様にでは無い。
まるで火を砂で消すように。
それを何度も何度も繰り返す。
するとだんだんと修復スピードが遅くなる。
「予想通り問題なさそうだな」
ロッソが気楽な声でルベルに話しかけるがルベルは状態を注視する。
一方胸を貫かれても、そのまま左肩が破壊され、上半身がなくなってもなんら反応しなかったゴーレムが土を入れられ続け、足をばたつかせ始めたのだ。まるで苦しんでいるかのように。
そして事切れたかのように足の動きがなくなる。
「ロッソ。砕いてみろ」
「あいよ」
そしてロッソは棍でポンと軽くゴーレムの足を叩く。すると先ほどで動いてたのが嘘のように足は崩れ去った。修復する様子もない。
「問題解決、だな」
「ああ。問題なさそうだ」
そして二人は静かにハイタッチをする。
「よっしゃ。任務完了。さっきの肉食うぞ」
「ああ。俺は村長さんに報告してくる。あと他にゴーレムがいないか探索してくる」
「困ったら呼べよ。お前一人じゃ勝てないんだから」
「そうさせてもらう」
二人は畑を背にし、戻って行く。
この後畑からゴーレムが這いあがったり、他ゴーレムが現れたという報告は出なかった。
そう、ゴーレムは。
ただ、この時だけはとりあえずの解決だと村の人、ルベルとロッソ皆が一度安堵した。
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