第28話 起きろ! 女神のすっとんきょう


「あ、起きた」


 瞼を開いた瞬間、パチクリと瞬くアクアと目が合った。

ここは……あの辺にあった茂みのどこかか?

千切れた葉と、土の焼け焦げる匂いがダイレクトに鼻腔を覆う。

思わず俺が咳き込みそうになった所で、アクアが先に吹き出しやがった。


「ぷーくすくす! ……はー、笑っちゃうわ。カズマさんったら凄いポーズでひっそり死んでるんだもん。……っぷくー! 何? 実は何かリアクション仕込んでるんじゃないの?」

「うるせぇ、人の死に様を体を張ったギャグと同列に扱うんじゃねえよ。……ところで、今回妙に蘇生が遅かったのって」

「え? 私が笑いをおさめるのに苦労してたからだけど」


 リスのように頬袋を伸ばされたアクアの悲鳴が響く。

しかし他の奴らはどうなってるんだ? なんせ、めぐみんが爆裂を打ってからの記憶がとんと無いのだ。

エリス様が言うには、死因は爆風で後ずさった時にちょうど飛んできた氷の破片を踏んづけたせいらしいが。


「なによー! さすがの私も、皆に見せびらかしたらカズマさんがもう一度死んじゃいそうだったから、笑いを堪えながらこっそりと蘇生だけしてあげたのに! 褒めなさい? 女神様の優しさに泣いて感謝しなさい?」

「なんでよりによって一番褒めづらいとこを……え、ちょっと待って? 俺どんなポーズしてたの?」

「それは……って、なに言わせようとしてるのよこのクソニート!」

「だから何言わなきゃなんないような格好してたんだよ!?」


 ああもうそれはいい。いや良くはないが。

それより周りの状況だ。アクアがちっとも察してくれない上に余計な事ばっか教えるから時間が経ってしまった。

まあ、こいつが呑気してる以上は目に見えて危険が有るわけじゃ無いんだろうけど。

エリス様が不穏なお告げを残すからなぁ……。


 爆裂マイスターの俺から見ても、あの爆裂魔法の規模は非常識だった。

クレーターの経を見るに、おおよそでも通常の3倍以上か。

その中央には、ほぼ嵩が無くなりひび割れた氷と中身ごと焼け焦げて停止したゴーレムモドキ。

そして冷たい氷の下から這い上がって息も絶え絶えのミツルギと、彼に頭を下げながらまだすすり泣いてるゆんゆんが居た。


「めぐみんは無事なのか? これだけの無茶をして、まったくノーダメージとも思えないんだが」

「カズマと同じように吹き飛ばされて気を失ってたから、とりあえずヒールだけかけといたわ。それにしても、なんだったのあれ? 私、ずっとめぐみんともめありすとも一緒にいたけど、あんな薬貰ってたことなんて知らなかったわよ」

「……


 居るんだよなぁ。ちょうどああいう怪しげな薬品ばっか仕入れてくる店の店員が。

オマケに変身能力まで備えている。……まあ、あいつは何でも出来過ぎるせいで逆に疑ってもしょうがない所があるが。

後でウィズにでも聞けば真相は分かるだろう。お仕置きはそれまでお預けだ。


「気を付けろったって、なぁ」


 この先、何がどうなるのかサッパリ分からん。

バニルに関しては注意するだけ無駄ってのは、ある種の真理では有るのだろう。

金さえ出しときゃある程度安全と慢心していた、いや、慢心させられていたのか?


「カズマ! 良かった、そっちも無事だったか。お前はたまに変な所で死ぬから、胸騒ぎがしていたんだ」

「あー、お、おう、ダクネスか。カズマは大丈夫だよ?」

「なんだぎこち無いな、頭でも打ったか? ……っておい、本当に血を流してるじゃないか!」

「だ、大丈夫だって! もうアクアにヒールかけてもらったから!」


 茂みをかき分けて、顔を出したのはダクネスである。

その後ろにはアイリスと、ダクネスに背負われているめぐみん。

怪しい薬の効果によってめぐみんは流石に精根尽き果てているようだが、アイリスには焦げ跡一つ見られない。

おそらく、ダクネスが庇ったんだろう。全身がなんとなく煤けてるし。


「もう、ララティーナったら相変わらず無茶するんですから。顔に傷でも残ったら、お兄さまが気にしちゃいますよ?」

「こいつに関しては、ちょっとくらい負い目を持ってくれた方が色々とありがたいんですけどね。まぁ、めぐみんの爆裂魔法は何度も食らった経験があるから大丈夫です。むしろ今日はマシな方ですよ」

「マシとはなんですか、マシとは。私が本気で放てば幾らダクネスといえど……いえ何かあったら怖いからやりませんけど……でも、一回くらいは……?」


 問題は、この感覚を覚えためぐみんが中毒を発症しないかどうかだな。

おクスリについ手が伸びるようになったら、本気で殴ってでも止めなきゃならん。

まったく、めありすかバニルかは知らんが、厄介な奴に厄介な物を覚えさせたものだ。


「……あれ? あのキノコ系女子は?」


 ミツルギとゆんゆんを除くと、あと顔を見ていないのはアイツらだけか。

特にしいたけの方は軽そうだからな。どっか吹っ飛んでないと良いんだが。


「あ、あそこじゃないでしょうか」


 アイリスが指差した先に、呆然と佇む制服姿の少女がいた。

首なし鎧の装甲に手をついて、俯き気味に何か喋っているようである。

こうしてみるとやっぱあの外装でけーな。倒れててもまだ家くらいの高さがある。

……何の会話してるんだろうか。少し『聞き耳』を立ててみるか。


「ね、ねぇタケッシー君。本当に必要だったのかな、こんなに大きいの」

『必要……?』

「ええ? もう、モンスターに襲われない動く拠点にしようって、タケッシー君が言ったんじゃない」

『ああ、そうだったッシーね……そう言えば、マナコちゃんにはそういう風に言ってあったッシー』


 なるほど、あんなデカブツを菌糸で満たしてどうするのかと思ったが、動くお家にするつもりだったのか。

それにしてはどうも様子が変だが。主に菌類の方から不穏な空気がする。

……エリス様が言うには、あのデカブツを覚醒させたのはバニル――いや、正確には『バニルとダクネスが早々に街を発ったせいで預ける相手が居なくなり、アクアが連れてきてしまったゼル帝のせい』なんだったか?

魔力だけはドラゴン級の目覚まし。微生物相手にもちゃんと効くのか。


 そして中途半端に目が覚めたキノコ入りの巨人は、本来制御するはずだった神器所持者の搭乗を待たずして世に現れてしまった。

待て待て、ちょっと良く考えろ――それによって何が起きる?

……それにどんな意味がある?


『このくらい必要なんだッシー……飛び交う上級魔法や爆裂魔法を耐えぬいて、あいつらに復讐するのには。本当は準備が整うまで寝かせておくつもりだったけど……こいつの存在がバレた以上、そうも言ってられないッシー』

「……? た、タケッシー君ったら何言ってるの。ふ、復讐……? も、もしかしてわたしの両親のことなら、タケッシー君がそんなことする必要無いよ……?」

『悪いわね、マナコちゃん』


 その瞬間。

俺の『危険感知』がざわりと反応して、装甲の中に何かがまだ潜んでいることを知らせた。

首の断面から見えていた箇所が、ボコっと泡立つように膨張する。


「おい待て、お前らそこから離れ――!」

『もう、哀れなマスコットの真似する必要もないの』


 椎茸ボディのどこにそんなパワーを隠していたのか。

4つに割れたカサから触腕を爆発的に伸ばし、タケッシーの奴は呆然とするマナコを絡めとった。

この場の誰もが、いきなりの寄生獣めいた光景に呆気にとられて息を呑む。

弾かれた眼鏡が地面に落ちる。二人がそのまま菌糸塗れの大鎧の中に飛び込むと、ドクン、と力強い鼓動が周囲を震わせた。


「あ……え?」


 悲鳴も上げることができないまま、菌糸にキノマナコが飲み込まれる。

そして再び、キノコの菌が魔導鎧を覆い始めた。

爆裂魔法によってひび割れ、粘菌が滲みだした胸元部分。

マナコが取り込まれたそこが、青白く光ってるのが微かに見える。


「ちょ……ちょっと!? あの子、飲み込まれちゃったんですけど!?」


 あんぐり口を開き、呆然としていたアクアが悲鳴を上げた。

奴に取り込まれたマナコの神器が作用しているのだろうか。オーバーロードでもしそうな勢いで、人型にキノコを満たしていく。

欠けていた頭部からは菌糸でできた女の上半身がキメラのように整合し、未完成の古代兵器を乗っ取った存在が何者かを雄弁に告げていた。


「……ひょっとして、マタンゴクイーンってあっち?」


 ズシン、と地響きが響いて、森を絨毯のように踏み潰す巨人が再び起き上がる。

ひび割れた部位から菌糸がはみ出し、サルノコシカケめいた鱗を作って装甲を繋ぐ。


『思っていたより、だいぶタイミングは早いけれど……絶好のチャンスだもの、逃すわけには行かないわよねぇ?』

「チャンスって……な、何の」

『もちろん、復讐よ。ド腐れ紅魔の奴らに私の茸を植え付けて、世界中の人間どもに胞子をバラ撒く手伝いをさせてやるわ……!』

「……そして、行き着く先は人の黄昏ですか。めありすが言っていたのはこういうことだったんですね……!」

『だとしたらどうする? 止められるのかしら。菌糸と神器の力で無敵の巨人と化した、この私が――!』


 人の2~3人ならまとめて踏み潰せそうなサイズの足が上がり、地響きと共に下ろされる。


「とにかく、今は逃げろぉ!」


 そして再び、蜘蛛の子を散らすように駆け出す俺たちであった。






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『待ちなさい、サトウカズマァー――!』

「カズマさんカズマさん、めっちゃご指名なんですけど! 答えてあげるのがいい男だと思うんですけど!」

「ふざけんな死ぬだろ! ていうか死ぬだろ! お前こそ女神なんだからちゃちゃっと行ってあのイヤリング封印してこいや!」

「そうしたいけど! 私が死んだら誰が皆を蘇生してあげるのよ!? ここはやっぱりイケメンなカズマさんが行くのが一番だと思うの!」

「うるせぇ、思ってもないような世辞を言うんじゃねえよ!」


 くそっ、蹴り飛ばしてあの中にシュートしてやろうか。

あのてっぺんにアクアを置いて上から水を流したら、装甲の中まで綺麗さっぱりにはならないだろうか?

これをアクアレット作戦と名付けよう。トイレの女神にはピッタリだと思う。


「なあカズマ、私思ったんだが、あれも一種の触手鎧と言えるのではないか? 中に入ったが最後、全身を撫で回されて苗床に改造されたりとかしてしまうあれだ……! うむ、なんだか興奮してきたぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいダクネス。あなたが突っ込んだら他の誰が私を背負ってくれるんですか!? 私は初めてはカズマにって決めてるんですよ!?」

「うるせえぞお荷物とド変態! とにかく今は真面目に走れ逃げろ!」

「お荷物!?」

「ド変態……っ!!」


 まったく、いつも通り過ぎて危機感も湧かない。

だが確実に相手は俺たちを踏み潰すつもりで来ているし、頼みの綱の爆裂魔法は流石にもう使いきっている。


「しかしどうしましょう。王家……げふん、チリメンドンヤに伝わる伝説の魔法も、一応試してみましょうか?」

「いえ、おそらく効果は望めないでしょう。私の三倍爆裂魔法でもひび割れさせるしかできなかったものが、アイリスの魔法で傷つくはずがありません」

「いやでももしかしたら」

「無いです」


 思ったよりも軽々と俺たちに追いついてきたアイリスが、スカートの裾を上げて走りながら言った。

めぐみんの頑なな拒否はともかくとして、魔法は魔法な以上効果は薄いと思う。


 後ろから迫るあいつは、簡単に俺たちを追い越さないよう、わざとペースを落としている。

例え一歩に十倍時間がかかったとしても、その一歩で進む距離が違い過ぎるのだ。

これじゃあ百年走り続けても逃げきれるはずは無いだろう。

沼のような絶望感が、疲れと共に俺たちの足を引く。


「ダメよカズマ、やっぱり逃げてても埒が明かないわ。私、なんだかんだこういう時に頼りになるのがカズマさんだって信じてるの」

「そうかアクア、信じてくれてありがとうな。じゃあ落ち着いた場所でどうにかする手段を考えるから、一旦皆を逃がすために囮になってくれ」

「ちょっと、こっちが本気で頼んでるのにその態度は何なわけ!? そんなだからいつまで経ってもめぐみんに童貞捨てさせて貰えないのよこのクズ!」

「お前言いやがったな!? 盛大なブーメラン投げ捨てて楽しいかこのクソ女神! 楽しいなら貸せよブン投げてやるから! 口に咥えてとって来いよ!」

「カズマ! なあカズマ! こうなったらやっぱり私が囮になるしか無いんじゃないか!? ふふふ仕方ないな仲間たちがそうまで言うなら任せてくれ絶対触手なんかに負けたりしないぞ!」

「やめて下さいね絶対やめて下さいね!? あなたの後ろには私が背負われてるんですからねダクネス! 許しませんよ、もし私に何かあったら連日連夜耳元で爆裂音を響かせるゴーストとして枕元に立ちますからね!」

『楽しそうねえ、アンタ達』


 そして気づけば、俺たちは完全に歩みを止め仲間内でわやくちゃになっていた。

その有様には、思わず敵すらも呆れ気味に声をかけられるほど。

それもこれも、アクアが馬鹿なことを言い出すのが悪いのだ。

拳だろうと言葉だろうと、殴られたら殴り返すのは正当防衛だろう。


「だいたいもう良いだろ! あとはバニルとめありすが頑張ってなんとかするよきっと! アイリスに万が一があったら怖いし、どうせ紅魔の里なんか燃えてもすぐ建てなおされるし、なんとかゆんゆん達と合流して『テレポート』で帰ろうぜ!? お前だっていい加減、酒場でよく冷えたシュワシュワとか飲みたいだろ!?」

「そりゃ飲みたいけど! アンタと違って私ずっと野宿だったんですけど! でも……でもね……?」


 だがアクアはだだっこのように拳をふるい、今にも泣き出しそうな顔で鼻水をすすり上げ。


「私はあの子に……『しあわせになってね』って言っちゃったんですけどぉ……!」


 こんな時に、そんな、女神みたいなことをホザく。


「かじゅまさあああん! なんとかしてよぉぉぉ!!」

「あーもう泣くな鬱陶しい! 俺だってこうなる前になんとかするつもりだったんだよ! いつものノリを抑えて交渉とか頑張ってただろ、俺! それをあっちからこっちからぶち壊しやがってよぉ、やってらんねーよもう!」


 元はと言えば、そもそもこいつがゼル帝なんか連れてくるのが悪いんだし。

アイリスに万が一のことがあったらこの場で生き延びても斬首とかになるかもだし。

紅魔族の里壊滅は後味が悪いが、あいつらのことだ、全滅ってのはまず無い。


「とにかく一度里まで戻るぞ。皆テレポートが使えるんだから、事情を話して一旦逃げよう」

「……いいんですか?」

「いいも悪いも、まずは俺達が見逃してもらえるかどうかってとこだろ。後のことだって生き残らなきゃ考えられねえんだぞ」


 無感情とも言える平坦な声で、めぐみんが問いかける。

なぜかは知らんが、マタンゴクイーンはやけに俺たちにご執心だ。

里まで辿りつけずに全員キノコの苗床になるエンドもそれなりにありそうで嫌だ。

アクアがいる限りなんとかなるだろうが、もしこいつがいなくなるとかなりの確率でヤバい。


 というか俺、あいつの声なんか聞き覚えあるんだよ。

俺のキノコが執拗に危機感を訴えてきている。下半身になんか嫌な思い出がある。


「本当に良いんですか、カズマ? あなたの世界の人間なのに」

「しょうがねぇだろ」


 相手は徐々に胞子で増えていって、いつか世界を覆い尽くすかもしれないって相手なんだ。

そんな相手を、ここで世界に危機を訴えることができずに全滅するほうが最悪だ。

仮に里にキノコ人間が蔓延したとしても、俺達が事前に警告できればテレポート対策することくらいはできる。

不意打ち気味に一気に奇襲されるより、一気に状況はマシになるはずだ。


「……しょうがねえよ」


 俺の言ってることは間違いじゃない。

……なのに、なんでこんなにケツの座りが悪いのだろうか。

俺はやるだけやったはずだ。うまく行かなかったのは別に俺のせいじゃない。

だいたいバニルがなんか企んでるそうじゃないか。あいつなら今の状況だって全部わかってんだろう。

多分、めありすが未だ来てないのはその為だ。

どっか決定的なところで、マナコごと神器をぶちぬいて止めるため。



 ――『だからもう、あんま『殺してでも』とか気軽に言うな。娘を殺人者にしたい親なんか居るわけねーんだからさ』



「カズマ……!」


 さっきまで泣きながら走っていたはずのアクアが、潤んだ瞳で俺を見上げた。

アクアに手を引かれ、足を踏み込んだ状態で俺が静止する。

数歩遅れて気がついた仲間たちが、次第にこちらを振り返る。


 ……あいつは。あのマタンゴクイーンは多分、人類全体の敵だ。

つまり俺たちだけでで解決するような事態じゃなくて。国とか自治体が総力を上げて撃退するべきもんだ。

たとえめありすに軽蔑されたとしても、俺は俺の命のほうが大事。


「ねえ、それでいいの、カズマさん?」


 それのどこを、この駄女神に説教されねばならんのだろうか。

もしかしてこいつ自分が生き返すからOKとか思ってるんじゃないだろうか。

そもそも常日頃から楽な道に進みなさいと言っているのはアクア自身ではないか。

分かったらこの手を離せ。俺が逃げられないだろうが。


「私、知ってるからね! カズマさんがいざとなれば誰かのために命を投げ出せる人間だって私知ってるから!」

「だからなんだよ、その人の死に様で爆笑してたのお前じゃねーか、幼馴染系ヒロインみたいなこと言いやがって」

「謝る! 謝るから! あの時のことは私が全面的に謝りますからぁ!」


 口だけならいくらでも謝れるんだよ。反省をしろ、反省を。

なんかいい話な風にしてるけど6割くらいお前のせいなんだよ?

その辺噛みしめてもっと頭を下げろ。地面までまだ90センチは開いてるぞ。


「だからお願い、あの子のことも助けて下さい……!」


 いい機会だから言っとくが、これは自業自得だ。

夢を与えるといえば都合は良いが、ぽんぽんチートをばら撒いて後処理を人に押し付ける。

おまけに行き先は危険な世界となれば、誰がこうなったっておかしくはなかった。

確かに、マナコは運の悪い被害者だと言えるだろう。

だがすでに何名ものチート持ちが不遇の死を遂げていることを考えれば、けっして特別不幸とも言えないんじゃないだろうか?

それをたまたま近くにいるから助けろってのは神の如き傲慢……いや女神だが……あー……。




「……しょおおおがねぇぇーなぁぁー――!!」




 ほら、なんだかんだで先輩に甘いんですからと。女神エリスが笑った気がした。

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