第23話:纏え! 胡散の大芳香
「ええと……
流暢なようだが、実際にはこの10倍くらいたどたどしい自己紹介だった。
しかし、アクアは転生させたのはついこないだって言ってた気がするんだが?
まああの空間って時間の流れが違うらしいし、その辺のずれなんだろう。多分。
「そんなに緊張しないでくれ。僕や彼も君と同じ……日本から女神さまの力で転生した同士さ」
「おう、なんなら先輩って呼ぶと良いぞ」
「せ、先輩ですか? はぁ……」
凄く嫌そうな顔をされた。
「あ、あ……違うんです。わたし、ほら、気軽に呼ぶと伝染るって言われてて……」
「うつる? 何が?」
「き……キノ菌が」
あー、なんつーかありがちな。
どうも口下手っぽい感じだし、イジメの標的にでもなってたんだろうか。
アクセルの街じゃあんまりイジメらしいイジメってなかったから懐かしい感覚だ。
あいつら、嫌がらせするときは正面から全力で行くし。
「王宮でもありますよ、『会話すると田舎臭さがうつる』とか、そういう嫌味がどうしても」
「どこの世界でも変わらない、か。由々しき問題だな……」
「真面目に頷いてるけど、お前普段はそういう風に言われて悦ぶ側だぞ、ダクネス。ほら立てよ変態マゾ騎士様」
「んんっ……! ふ、不意打ちとはやってくれるな下衆め! ましてやこんな、姫様も初対面の少女も居る前で私にどんな辱めを与えるつもりだ!?」
「椅子が足りないから壁際で空気椅子な」
「!?」
そして鎧姿で空気椅子を敢行するダクネスである。
やれやれ、椅子が一つ空いたのでこれでやっと座れる。長いこと歩きづめで足がパンパンだ。
流石に妹やゆんゆんをどかすのには抵抗があるが、ダクネスなら構わん。
「あの人もイジメられてるんですか……?」
「大丈夫、ララティーナはちょっと好きな人に無碍に扱われたいだけだから」
「どこが大丈夫なのかわからない!」
「少なくとも、社会的にではないことは確かだろ」
まあ、性癖については置いておこう。それより今はこいつの神器についてだ。
性癖で身を滅ぼすことは有るかもしれないが、世界を滅ぼすことはそうそう無いし。
能力そのものは、キノコと話ができる程度のものなんだが……
「あ、その前に。こちら私の親友の――」
話を切り出す前に、卓の上にドン、と鉢植えが置かれた。
中に埋まる原木から、茶色カサの変哲も無いキノコが生えている。
「タケッシー君です。椎茸です」
「…………おう」
わかっちゃいたけど、やっぱ真顔で言われるとインパクトあるな、これ。
「タケッシー君は少し照れ屋ですけど冗談が上手いんです。それに運動が得意で、よくカサを開いて深呼吸してるんですよ。困ってる時なんかいつもじっとわたしの話を聞いてくれて、つぶらな目でにっこり微笑まれると嫌なことがあってもわたしまでホッとしてくるんです日本で死んじゃった時はもう会えないのかなと思ってたけどこっちの世界にもずっと着いてきてくれてやっぱり頼りになるというか彼が居なかったらわたしこっちにきてすぐ死んじゃってたかもと思うと胸のあたりがキュンとして」
「待て! 待て待て待て! 急に早口になるな、聞き取れないから!」
大人しい子だと思ったら急にアクセル全開にしてきやがったな、こいつ!
見ろ! 俺よりも変人に耐性のないミツルギがポカンとしているじゃないか。
ゆんゆんは何か分かった風に頷いている。あいつも所詮紅魔族だからな。
「え、えーっと……どの辺までが設定だい?」
「? 全部本当ですけど……」
「おぉ、もう……」
やっぱりバニルが難物と言うだけのことはあったわ。
そりゃここで真っ当に小動物してるだけの中学生とか出てこないよな。
ダメ神様が監督してダメ人間がしぶとく生き残り、空いた所に次々と別世界のダメ人間が投入されていってんだもんな!
オイオイオイ、滅ぶわこの世界。
「……
さすがのアイリスも、指でつんつんつつきながら疑問符を浮かべている。
そうだよなぁ。なんか期待してた方向と違うんだよ。
俺はもっとキ○ピオみたいなのが出てくると思ってたんだ。モロにキノコじゃん、これ。
「神器のイヤリングってのはアレか? キノコの菌がキャラクターっぽく見えて会話できるとかそういう感じなのか?」
「えっ?」
「あっ違う、コレもっとダメな奴だ」
まさかとは思いますが、この人物はあなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか? とかそういう感じの。
『誰が想像上の存在だっシー!』
「……ん?」
おかしい、今なにか聞こえたかな。
いや、幻聴だろう。なんかそういうの聞こえてきそうな雰囲気だもん。
「あ、タケッシー君。良かった」
『まったく、人が寝てる間に上から指でつつくとは無礼な奴らだッシーね。頭が高いッシー!』
「うわぁ、喋った!?」
「おいこいつ大丈夫か? 主に不敬罪とか、著作権とか」
ちょっと一言で色んな所に喧嘩売りすぎじゃないか、このハラタケ目。
周りを見れば、アイリスやミツルギも驚きに目を丸くしている。
良かった、別に俺の頭がおかしくなったわけじゃないんだな。
『マナコちゃんの力があれば、カサを震わせて音を出すくらいお茶の子さいさいだッシー!』
「そうか凄いな、胞子が飛ぶからちょっと黙っててくれる?」
『菌界の偉業に対して容赦がなさすぎる!』
だってなんかフケみたいでばっちぃし……。
菌類にあるまじき進化とげやがって。これが神器の力なのか?
「これを、君がやったのかい?」
「はい。女神様の力で菌の成長の仕方を操って、キノコでも音を鳴らせるようにしてみたんです。それと菌糸をネットワークに見立てて軽い自我を目覚めさせてみたり……でも、今じゃわたしよりお喋りが上手になって……」
「ははは、手綱握りきれてねぇ」
なるほど、『森のキノコとお友達になれるイヤリング』ね。
キノコと喋れるって、物理じゃねーか馬鹿野郎。こういうのはキノコ"が"喋れるようになると言うのだ。
つーか、日本の倫理観からすると超えちゃいけないラインを反復横跳びしてるよなこれ。
神の領域でシャトルランしてる感じ。
「……ちなみに、外の森もあなたが?」
「あれは……まぁ、わたしと言うか……タケッシー君が、モンスターを追い払う為にあのくらい必要だって……」
『マナコちゃんは紙飛行機より戦闘力が無いッシー! 見てるだけで混乱する奴とか、自動で毒を撒いて追い払う奴らが居ないと明日には引き裂かれたティッシュになっちまうッシー!』
「うん? そんなもん生えてたか?」
「……今、本当にカズマさんを前に行かせて良かったなと思いました」
なるほど、天然のトラップ畑だったんだな。その割には俺を素通しだったが。
そういえば、だいぶ前に知り合いの冒険者にどうしてもと泣き付かれてヘルプに入った時も10フィート前あたりで勝手に遺跡の罠が動作し始めてビックリした気がする。
今思うと、あれは俺が居たからだったのか。
……もしアクアが居たら、素通りできた分の罠をわざわざ起動させてたんだろうな。
なし崩し的に置いてきたあいつらは大丈夫だろうか。
なんか俺、今更になって不安になってきたよ?
めありすも居るし大丈夫だとは思うが……案外、とんでもない罠に引っかかってたりしてそうなんだよなぁ。
『ところでマナコちゃん、そろそろ時間だッシー?』
「あ……もうそんな時間……? で、でもほら、今日はお客様いるし……」
『駄目だッシー! 日々の継続が努力の基本だッシーよ!』
「うん? 何か用事でも有るのかい?」
タケッシーとやらに指摘され、マナコは急にそわそわと身体を揺すりだした。
何か俺たちに見せたくないものでも有るのだろうか。
ミツルギが切り込むと、タケッシーはつばでも吐くように身体を震わせ、粘着く菌糸を飛ばす……なぜか俺の方に向かって。
頬にべちゃりとした不快な感覚。
「ちょっ!? タケッシー君……!?」
『これから秘密の特訓だッシー! 部外者には教えてやらない、シッシー!』
「いやいや、こっちこそ急にお邪魔しちまって悪かったな。今度は七輪と醤油差し持ってまた来るから覚えてろよクソシイタケ」
『お前それで誰を焼くつもりなのか言ってみろッシー!』
ははは、怒ってないよ? 俺をイラっとさせたら大したもんだよ、マジで。
今度はこっちも家からでっかい大砲持ってくるから、是非中心で食らっていってくれよな。
もうほんと、うちのパーティの自慢だからさ。クレーターの奥底に沈めてやる。
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「しんどい」
完全にエネルギーが切れた私の身体が、母さんに背負われて運ばれていきます。
そんな母の足も、子鹿のようにプルプルと震えて今にも倒れてしまいそう。
「アクアーアクアー、そろそろめありすをおぶるのを代わって下さいませんか……私、アークウィザードですよ? 力仕事はノーサンキューのキューちゃんなんですけど」
「嫌よ、そもそもめぐみんってばカズマより力あるじゃない。支援もかかってるんだからそこまで辛く無いはずだわ」
「なんかこの子ってば見た目以上に重いんですよ! そして背中に当たる確かな膨らみが絶えず我が心にプレッシャーを与えてくる……! おかしい、断崖絶壁は血では無かったのか……神はこの娘のみに微笑んだのか……!?」
「はいもしもし、神です」
「神は死ね!」
「ちょっとぉ!?」
ああ、それにしてもうるさい人たちですね。おちおち寝てもいられません。
……まあ、意識だけ覚醒していても指一本動かせないんですけど。
これはもう、仕方ありません。体質というか、呪いみたいなものです。
特定状況下では何があっても寝るしか無いんですよね、私。周囲で何が起きてるかは大体分かるんですけど。
睡眠ガスの罠とか踏んで、状況が刻一刻と追いつめられていくのが分かるのに眠りこけるのは中々辛いものがあります。
「良くないわよそういうの。いい? 女神さまをぞんざいに扱うとバチが当たるわ。めぐみんってば最近カズマに影響受けすぎてるんじゃない?」
「何を言うんですか、私がカズマを染め上げてるんですよ。何故なら我がソイルは漆黒の闇、何者にも染まらぬ爆裂道の黒ですゆえ」
「そうなの? 真っ白な女神さまには分かんないわー。いやー私ったら水の女神だから! 清廉潔白の白だから!」
「いいですよね、ホワイトリカーの白」
「焼酎!?」
ああ、果実酒とか作るのに使うお酒ですね。
昔は毎年父が仕込んでいましたが、今でもやっているんでしょうか。
昔より今が過去っていうのも、ちょっとややこしいところですが。
「それよりアクア、なんかズンズン進んでいってますがちゃんと目的地とか有るんですか? とりあえず私は一刻も早くめありすをベッドに寝かしてあげたいので、里の自宅の方に戻りたいんですけど」
「大丈夫、任せなさいって。私の揺るぎなき邪悪サーチアイがこっちだって言ってるんだから」
「いや今私らガス欠ですからね!? どうするんですか邪悪とエンカウントして戦闘になったら! めありすを囮にして逃げるんですか!?」
おい母。
「……そう言えばそうね……どうしましょうめぐみん、まったく考えてなかったわ。今からでも戻ったほうがいいかしら」
「戻ると言ってもどっちが戻り道かなんて分かりませんよ。今、うちのパーティに居る唯一のレンジャー技能もちはこの有様です。最悪、パージして脱出しましょう。なぁに大丈夫ですよこの子強いですし。囓られはじめたら目も覚めるでしょう」
おい母! おい母!
駄目ですって! 時間経過以外で起きれないんですから私!
下手するとそのまま丸呑みエンドとか見えてきます。いやぁ、駄目だこのパーティ。
偉大なる父よ、肩叩き券あげるので帰ってきて下さい!
「ちなみに、邪悪まであとどれくらいの距離なんですか?」
「え? うーん、そこの藪に入ったらエンカウントくらい?」
近え!
――ガサリ、と葉が揺れました。
一定間隔で続く草を踏む音と共に、何者かがこちらに近づいてきます。
足音からして、おそらく二足歩行。体重は成人男性一人分。
まあ、人間形のなにがしかでしょう。一撃熊とかじゃなくて一安心。
「……む。見通せぬ何かが近づいてくると思ったら、やはり貴様らか」
「邪悪発見! 喰らえ『ゴッドブロー』ッ!!」
「『カウンター殺人光線』!」
ある意味、もっと性質が悪い人でした。
神と悪魔の力が相殺し、瞬間的にすさまじい衝撃波が巻き起こる。
あの、私が動けない時にそういうことするのやめて下さい。逃げれないので。
「はあ……こりゃ長くなりそうですねえ」
まったく同感です。
せめて巻き込まれないように、2・3歩下がっていましょうね、オリジナル。
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