口の悪い変態執事誕生
「流石、だ。いえ、流石です」
「へ? 」
仰向けのまま、突然敬語に変わった。
「あのまま葬り去ることも可能でしたのに、貴女は私を殺しませんでした」
「負けたら奴隷になる話したじゃない」
「本当に馬鹿正直な方ですね」
「あんた、どこまでバカにしたら気が済むの。口調を変えてもそこは変わらないのね」
クツクツを笑い出す。
頭おかしくなった? 元から?
「……簡単だと思いませんでしたか? 」
「そうね。あっさりしすぎていたわ」
「ためしていたんですよ。本当に単細胞かどうかを」
「本気で頭かち割られたい? 」
「これでも褒めているんです」
「どこがよ」
ムクリと上半身を起こす。
「見た目は人間の小娘風情で、大きな口を叩く姿。偽りかどうかをね」
「ウソついてなんのメリットがあんの? 」
「すぐ騙されてしまう可哀想な方、そう見受けられました。どんなに俊敏で力があっても、絆されやすい。今後が心配でなりませんよ、お嬢様」
「ああん? 何が言いたいのよ」
起き上がると片膝をつき、
「誓いましょう。あなたの盾となり、槍となりて───尽くします、我が主」
「ちょっと、契約まだなんだけど」
「一々必要ですか? 」
「基本的に離れないでしょうけど、すぐ呼べないでしょ」
溜息ひとつつく。
「では、どうぞ」
襟をめくり、首を差し出す。
「あんた、名前は? 」
「エドガー、エドガー・クロフォードです」
「ボクは、
肩に手をつき、ゆっくりと左首に牙を突き立てる。
「この印が眷属の印。裏切ったら───わかってるわね? 」
「ええ、存じ上げております。妖怪の常識です」
一息ついた瞬間、瞳に明るい光を感じる。
「ヤバい。ちょっとエド」
「え? 」
エドガーの腕を掴み、壁にして光を遮る。
だけど、月が隠れた時点で変化は抑えられない。
縮んでいく体。いつもなら寝てやり過ごすけれど、今回は時間を掛けすぎて朝陽が登り始めてしまった。
「……ほう? 面白いですね。吸血姫だから陽に弱いのは変わらないとはおもいましたが、本当に小娘になりましたね」
笑いを堪えているのが振動で伝わる。
クソ! 初日で失態よ。
「バカにすんな! バカバカ! 」
胸元を全力で叩くが、ポスポスと軽い音しかしない。
陽の当たる時間は人間並かそれ以下になり、本当に人間と変わらなくなる。
叩き続けていると、両手を難なく掴まれてしまう。
「あまりの力量の差ですね。お可愛らしい……。お世話して差し上げなければなりませんね」
「赤ん坊と違うわよ! 」
「声まで幼いとは……」
ムカつくほどに満面の笑みを浮かべやがる。
「お料理はできますか? 」
「で、できない」
「お洗濯はできますか? 」
「……できない」
「お片付けは? 」
「や、やればできなくは……」
「嘘は嫌いではなかったんですか? よくおひとりで生きてこられましたね」
コイツ、全部計算だったの?!
「依頼料をすべて完備されたホテル仮住まいで過ごされてきたんですね。その日暮らしでは先が見えますよ。栄養管理もままならなかったでしょう」
当たりすぎて絶句する。
「長く生きていようが生活を疎かにしては子どもと変わりません。ああ! つまらない毎日にGOOD BYE! 昼間のお嬢様の意地っ張り姿を楽しみに残りの人生を捧げましょう!
」
ボクは今更後悔した。
コイツ、弄る相手が欲しかったんだわ。
陽の光にも屈しない奴隷は、とんでもなく、口の悪い世話好きの変態。
「……ああ、菖蒲お嬢様」
「へ? なに? 」
「『妖怪と人間の共存と共栄』をめざされているのでしたね? 」
「そうね」
「では───あのキョンシーは見逃さない方がよろしいかと」
「あんた、なんか面倒臭いことに巻き込まれてんの? 」
「ええ。私だから……ではないようですよ。きな臭いので尾行していたら妖怪ハンターを名乗る人間に狙われて、仕方なく裂傷を負わせてしまったわけです。そのせいで逃げられたので、妖怪ハンターとキョンシーが手を組んでいるのか、たまたま二匹の妖怪に出会しただけなのかは定かではありませんが、キョンシーは一匹じゃありません」
一匹じゃない?
「暫くは雲隠れするでしょうが、いづれまたヤツらは現れます。たまたまですよ、一匹でいたのは」
「ボクが逃がす手助けしちゃった? 」
「まぁ、あそこでは逃がしてしまうかトドメを刺すかの二択でしたので、逃がすことも間違いではありませんよ。しかし……お嬢様の依頼主もきな臭くなりますね」
「事を荒立てるような依頼の仕方をしていたものね。下手したら共食いよ」
エドがわざと負けた理由は、信頼出来る相手かどうかだったのかもしれない。
ひとりでは太刀打ちできないほどに、数が把握できない敵と対峙していた。
”キョンシー”はもしかしてラスボスになるかもしれないわね。
妖怪にも生死あるし、キョンシー死体だし。
ボクが”データ取り”として妖怪を集めている理由のひとつだ。
あの依頼主は前金だけ払ってトンズラをされた。トンズラするのはこっちの仕事だってのに。
たぶん、前者か後者か、はたまた三つ巴か。
すでにボクも巻き込まれていたんだと思う。
乗りかかった船? かはわからないけど、尻切れトンボ的なやつは嫌いなのよ。
ボクが妖怪最強だって知らしめてやるんだから。
今や口が悪くて口うるさいエドがいるお陰で、小銭稼ぎをしないで済むし、家事炊事を嬉嬉としてやってくれている。
……いづれ来る、見えない敵と退治するために───。
御神楽《怪奇》探偵事務所 姫宮未調 @idumi34
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