本気の勝負?

『単細胞が俺に敵うと思うか? 』


コイツは煽るのが十八番おはこなのかしら。

そんな程度じゃキレたりしないんだけど。


「ボクを誰だと思っているの? 」


面白いと思った。

だって、今夜は満月。

通常の妖怪ならば理性を失う媚薬。

コイツは冷静なんだもの。

狂ってこの状態? 面白い。ボクの下僕にほしいわ。

このボクにあけすけなく物申す肝の座りっぷり。


「あんたは気がつかないの? ……よ」

『おまえは習性の話をしたいのだな。確かにお互い正気だ。おまえを見くびっているわけではない。相当の猛者ではあろう。……実力はわからんというわけか』


そのセリフを口火に、同時に後ろに飛んだ。

瞬間、お互い一気に跳躍する。高く高く……。

すかさず回し蹴りをお見舞する。

座高の低さを利用し、避けられてしまう。

同時に地上に降り立つ。

片足を軸に前に飛ぶ。

妖気と妖気がぶつかり合う。

こちらが少し押した瞬間、一気に軽くなり、オオカミは後退していた。


『少しはやるようだな』

「少しどころじゃないわよ」


何か隠し玉でもあるのかと後ろへ飛び、様子を伺う。


───ワオオオオオン!!!!


妖気を含んだ遠吠えが空気を音を立てて振動する。

雑魚妖怪なら弾け飛ぶか逃げ出すレベル。

ボクには震度三程度の地震。

部屋のなかで「あれ? ちょっと揺れてる? 」程度。


「今ので怯むと思った? 」

『……驚いた。おまえはだ? 人間と変わらない容姿に変化できること自体、妖力が高い証拠でもあるが───妖怪ハンターか? 』

「ごめん、何言ってるか分からないわ。ボク、ないし、妖怪よ? 」

『!!? 』


この見た目だと人間によく間違えられるけども、妖怪にも分からないもん?

妖怪レーダー的なアレで「ピピーッ! コイツは妖怪○○ダ! 妖怪○○とは……」とか解説入ったり、「この妖気は……! やはり○○! 」ってお約束は現代にはないのね。


吸血姫ヴァンパイアよ。日本古来のね」

『……の割には、人間社会にかぶれすぎてはいないか? ふむ、吸血の民か』

「ノンノン! 吸血の姫。された神級の妖怪なの。……アニメ面白いもん」

『人間に神として祀られた妖怪、か。……面白い。敬意を払い、でお相手しよう』


一陣の不自然な風が通り過ぎると、高身長イケメンが立っていた。

タイプじゃないけど、大半の女子が喜びそうなくらいは整っている。

ナイスミドルなブラウンカラーの明治時代にいそうな紳士風。


「優雅な舞踏会にでも招待してくれるのかしら? 」

「差し詰め、武踏会といったところかな。ではお嬢さん、月明かりの元に一曲お願いしよう」


差し出された手に手を重ねる。


「まぁ、ステキ」


指先と指先が触れる、それは第二ラウンドの始まりのゴング。

指先を軸に半身回し蹴りをプレゼント。


「ぐっ?! 」


吸血姫だからって首を予想したのか動かず、重い一撃を肋骨に食らわせる。

反撃に対抗すべく、バク宙一回転で離れた。

人型銀狼は膝を着く。


「かはっ! 」


内蔵がシャッフルされたのか、アニメーションほどごうかいではないが、口から血が零れている。

よろよろと立ち上がった。


「まさか物理が得意だとは、もう一発は頂けないな……」

「口を開く前に動きなさいよ」


ゴッと重い音が聞こえた。


「ぐぁっ! 」


軽く跳躍し、パンツが見えるのも気にせず踵落としを決めていた。決まってしまった。

先手必勝以前の問題。

妖怪だから人間より頑丈ではあるはずなんだけど……完全にのびてるわね。

脳震盪ってやつ。

なんだろ、こうもあっさり勝っちゃうとリセットしたくなる。

しっかし、どんだけ妖力安定してるの。

人型解けずに気絶してる。

油断なんかしなかったら、もうちょい接戦できた気がするけど。

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