番外編『悪鬼銀狼』
返り血のオオカミ
「……噂ではこの辺りなんだけど」
ボクは街や村を点々としていた。
定住先を見つけるにも、先立つものが必要。
家事や随時もできない。
従って、ホテル暮らしになる。
金持ち相手に何でも屋と称して依頼を受けてきた。
「殺すのは性にあわないのよね」
手前勝手な無理難題を押しつけられる前にトンズラ。
そんなその日暮らしを繰り返してきた。
で、今回はデカいヤマなわけ。
何でも、でっかいオオカミが人間や妖怪を殺しまくってる凶悪なバケモノらしい。
正確には瀕死の重症っぽいんだけど。
人間って物ごとを大きく捉えすぎちゃうヤツが多いのよね。
ま、でも凶悪には変わりないわけで。
怪我させちゃってるだけで、ボクの理念から離れちゃってることには変わりない。
……真夜中の暗い路地裏をそんなことを、のらりくらりと考えていた。
───ゴアアアアア!
あら、叫び声ね。
今夜は妖怪がターゲットか別の妖怪か。
今夜は満月。
ボクは声の聞こえた場所に最短ルートを脳内で構築しながら、壁や屋根を軽やかに飛んでいく。
現場付近───暗がりの路地裏に見えたのは、大きなケモノと人型の歪なヤツ。
「そこまでよ! 」
目の前に降り立つ。
流れる雲の間から除く月夜が敵を露にした。
銀色の立派な毛皮を着たオオカミ───銀狼が御札をおでこにつけた人型───キョンシーに襲いかかっていた。
キョンシーの、独特な古い中華服はぼろぼろ。
肩からは緑の血が溢れている。
オオカミの毛は、白に近い銀に緑の血が散っていた。
ボクの声に同時に振り向く。
『……邪魔をするな』
思いっきり睨まれた。
怯むほどではない。
まぁ、ボクだからなんだけどね。
「そうもいかないのよねぇ。あんた、殺ししてる話が出てるから」
『俺は妖怪以外殺していない』
「同族殺しもご法度よぉ? 」
『仕掛けてきたのはむしろ、あっちの方だ』
雲行きがあやしいわね。
『「あ」』
話している間に、キョンシーは消えていた。
「あっちゃー。あっちも何とかしたかったな」
話し合い、できるかな。
討伐依頼とはいえ、ボクは人間との共同生活が信条。
───シャッ!
考え事をしていたら、眼前に迫っていた。
「おっと! 」
間一髪、鉤爪から逃れる。
まずは一戦混じえてかしら。
第二波を危なげなく避けながら。
『悪あがきをするなよ』
「してないけど? 」
会話はできる。まだ正気だ。
真実を知りたい。
如何にして話をするか。
スレスレを維持し、様子を伺う。
一筋縄じゃいきそうにない。
「人間ってさ、課題妄想なイキモノだからいざとなると弱いのよ」
『何が言いたい』
「あんたには人間と妖怪殺しの疑いがあるの」
『だから言っているだろう。俺は妖怪しか殺していないと』
「あー、……怪我は? 」
そこで時が止まったようにピタリと止まる。
「……妖怪を悪しきものとしてまとめて始末しようとした人間がいた。邪魔だから───腕に裂傷を負わせた。死ぬような怪我ではない」
人間傷つけられるならきっと人間殺してる、そういう妄想連想がなりたってもおかしくない。
いつだって敵意をむき出しにしているのは、加害者よりも被害者なのよ。
加害者は被害者にあの手この手で仕返しさられて逆上してエンドレス。
自ら手を下さない被害者は心的外傷後ストレス障害を併発する。
なんて醜いイキモノなのかしら。
だけど、その中でも真っ当な人間もいる。
人間も妖怪も変わらない。
クソみたいなヤツが人間の被害者代表みたいなヤツだと思えば合点がいく。
「漁夫の利のつもりが、二兎を追う者は一兎をも得ずってことね。倒せないから、適当なこと言って最強のボクを利用しようとするなんて───許さないわ」
『掘り下げるのは得意なようだが、おまえ、チョロいと言われないか? 俺が真実を言っているかも分からないだろう? 結局、人型をしていても妖怪としての基本的認識を覆せない。妖怪に肩入れしてしまう。人間の依頼を受けた時点で人間と共存の道を目指しているのだろう。だが、お前みたいなやつは丸め込まれて、正義だと思い込まされてボロ雑巾にされるだけだ。それと残念だが、最強は俺だ。知性と実力を兼ね備えている。おまえみたいなバカ正直ではない』
正論の前に二の句が継げない。
だが、負けるなんて嫌なの。
「───ねぇ、だったら勝負しましょ? あんた、知性と物理でボクは物理。総合的に打ち負かした方が相手の眷属になる。結局、妖怪って物理優先になると思わない?
言い訳が上手いやつか力が強いやつ。人間と妖怪の違いなんてそんなもん。ちょっとニュアンスが違うだけで変わりはしないのよ。そう、思わない? 」
意外な言葉がついて出た。
下につくくらいなら、舌を噛み切って自ら首を引きちぎり、心臓を握り潰して死んでやる。
……だから、負けてやらない。
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