波乱万丈な体育祭~器用すぎる先輩~《パン食い競走》
───所変わって戦場。
俺は必死になっている参加者を横目に、異常なスペック持ちを目の当たりにした。
「センパイたちも一組なんだっけ」
犬のように食らいついて貪る親友はさて置き、シュウちゃんセンパイがすごかった。
器用に跳ねながら、あの小柄な体のどこに入るのか、捻りチョコスティックパンのみを食べていく。
1個につき3回、テンポよく。
必要ないってこういうことか。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 」
突然女子の黄色い叫び声に我に返った。
「あ? 」
声のする方に視線をやり、───後悔した。
「シュウちゃーーん! 」
「何してても可愛い! 」
モテるんだ……。敵だ。
「もっと言って~~~! えへへ♪ 」
ノリノリじゃねぇか。俺にはできねぇや。
「シュウちゃん、すごーい! 」
「こっち向いてー! 」
観客率の高い三年のセンパイたちの女子のほとんどが、シュウちゃんセンパイに黄色い声援を送っている。
「大した競技でもねぇのに……」
一チームにつき一人、手を使える権限があるのに一向に来ない。
取ってきた捻りチョコスティックパンをちまちま食べながら、喧騒を眺めて黄色い声援から目をそらす。
「俺もモテたいわ。俺を好きなのは妖怪だけかよ……」
「優多ァァァ! 」
「ああん? 」
隆一が叫んでいた。
「追い打ち掛けんぞ! 」
指差すは俺の後ろ。
「ん? 」
振り向くと、雑多に入ったダンボールがあった。
『ご自由にお使いください』
そもそもパン食い競走だから、手でパンを取るのはナンセンスだ。
脳内で高速計算を始める。
中からひとつ、学校になぜあるのか分からないおもちゃの釣竿を見つける。
プラスチックの大きめかぎ針がついた、中身スカスカ感パないやつ。
「セットポイントとか言ってたな……」
ブンっと釣竿を振る。
おもちゃとはいえ、リールつきの本格的なやつだ。
捻りチョコスティックパンをよけ、釣りの要領で、空中にぶら下がっているパンを狙い撃ちにしていく。
とことん捻りチョコスティックパンのみをピンポイントで器用に食べているシュウちゃんセンパイ。
密集していたパンたちをランダムで食いちぎっては完食していたと思ったら、我が親友は狙いやすいように空間を開けてくれていたらしい。
「アイツも変なとこで器用だよな」
モタモタしている他のメンツを後目に、次々にかぎ針に引っ掛けて回収していく。
捻りチョコスティックパン以外を。
カゴに魚のように投入しながら、手に取り、隆一の口目掛けて投げつけていく。
「よっ! はっ! ふぐっ! 」
入るだけ口で受け止めていく。
「そういえば、鞠也センパイは……」
好きだと言っていたメロンパンと格闘していた。
半分諦めモードで。
「鞠也ちゃぁぁぁぁぁぁん! 頑張ってぇぇぇぇぇ! 」
ちょっと頑張りたく無くなるくらい元気な声援が聞こえてきた。
鞠也センパイのお姉さんだろうか。
本人より元気いっぱいだ。
「……いや、隣のボケっとしたイケメンがお兄さんかな。あ、鞠也センパイ動かなくなった。何してんだ、あの人」
釣竿でメロンパンとあんぱんを回収する。
「鞠也センパイ! こっち! 」
こちらに駆けてくる。
「鞠也センパイ、手を使えないですから。今回だけですよ」
本格的にあーん状態になった。
何が楽しくてヤローにあーんしなきゃ行けねぇんだよ。
うなづき、素直に口を開けて食べてくれる。
間近で見てもキレイだよな、羨ましいぜ。
「んまっっっっ!! 夏角くん! 鞠也ちゃんが可愛い男の子にあーんされてる!! ハァハァハァハァハァハァハァハァ!! 」
……ヤバい人だ。
「鞠也、彼氏くん? 」
「……違うから」
ものすごい威圧を放ちながら、睨みつける。
「優多さん! 私に……!! 」
「エドガーさんはシャラッブ!! 」
言い終わる前に言い放つ。
「じゃぁ、ボクに……!! 」
「菖蒲さんお口チャック!! 」
似た者師従関係を一刀両断した。
───結果、そんな気張らなくとも、圧勝だったことには変わりない。
「隆一、畔上は? 」
「あそこで伸びてるよ」
昼飯あとで二進も三進も行かなかったらしく、突っ伏していた。
「アイツはすげぇよ。パン十個食いやがった……。危なかったぜ」
「おまえ、三十は食ってたぞ」
───そんなこんなで、パン食い競走は幕を閉じた。
「ねぇ、鞠也。あーんされてた……。やるなら僕がやりたかったから、2ラウンド目いこ」
パンはもう殆どなくなっていた。
「先生は感動したぞ! 俺の意図を理解してくれたのはおまえらだけだ! 来年の開催の許可が出た! 体育祭終わったら焼肉食いに連れて行ってやる! 」
「来年はレーズン入りの捻りチョコスティックパンでお願いしまぁす! 」
「学食のおばちゃん! ありがとおおお! 」
熱血教師と化した三浦センセーが出てきた。
シュウちゃんセンパイも隆一も話を真っ当には聞いてはいない。
「ずるーい! 」
「だったら、去年頑張らなかった自分を責めろ」
三年のセンパイたちが語彙力のない不平不満を漏らす。
容赦なく切り捨てる教師。
ねぇ、このしょうもない競技、来年もやるの?
俺、やりたくない。
ふと、肩を軽く叩かれた。
完全に影が薄くなっていた譲だ。
「無駄なことも人生には必要だよ。バカしたなって、いい思い出になる」
「いいこと風に言ってるけど、結構ディスってんな」
「隆一が無駄に尺とってたから、出番なくてね」
「わかるわ、それ」
「異常に訳知りっぽかったのも引っ掛かるし」
「それな」
───俺たちの奇遇がこのあと、明らかになる。
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