波乱万丈な体育祭~保護者の日常in体育祭~(パン食い競走)

「……ねぇ、エド」

「なんでしょう? お嬢様。今手が離せないのですけれど」

「へぇ? それはなに? 」

「オペラグラスです」


ハンドル付きオペラグラスをオペラ鑑賞さながらに使用する執事の姿は様になっている。

けれど、明らかに浮いていた。


「おまえに必要ないと思うけど? 」

「型から入るべきかと思いまして」

「……優多をガン見しても、オペラグラスごしならバレないとでも思っているの? 」


フードを被っても、長いしなやかな髪が零れている。


「バレても構いません。聞かれたら清々しく、優多さんの勇姿を目に焼き付けていたとお答えしましょう」

「……寄越しなさいよ」

「申し訳ございません。自分用しか持ち合わせておりませんので、をお使いくださいませ」


主相手にしれっと答えた。


「下僕のくせに生意気ね……」

? 」

「そういうのは主が持ってなんぼじゃない!


変わらぬ小競り合い。

お互い譲らない。


「お姉ちゃんに失礼……」

「はいはい、公共の場よー? 」

「いっているだけだからね♪ そっとしておけばいいよ♪ 」

「それより、お酒ないの? 」

「ここは学校なんだから帰ってからね」


做々瘰たちも自由気ままだ。


「そもそも余計なものはいらないんです」

「優多見てニヤついてるだけじゃない」

「いいですよね。肉感のないしなやかな体型なのにパワフルで、汗ひとつかいていません。白い体操服から伸びる四肢。ああ、半袖から出ている白い腕。ああ、半ズボンから伸びる足。なんとキメ細やかな健康白。走る姿もキュートでそこはかとなく逞しさも感じます。ハァハァハァハァハァハァハァハァ……」


呆れるしかなかった。


「───ちょっと做々瘰、ポリ呼んできて」

「わかったわ、お姉ちゃん」


御座から立ち上がろうとすると、皆に止められた。


「しれっとわざと人選ミスしてないでくださいよ……」


呆れてお茶すら沸かない。


「……はっ。優多さんの傍にが! いや、優多さんの方が好みではありますが、小悪魔的な美少年も捨て難い」

「───早く通報してあげた方が親切ってもんよ」

「口で言ってる段階ならまだ大丈夫だよ♪


エスカレートしていく執事に、容赦ない主と、面白がったり引き気味の面々。


「……何だかんだ仲良しですよねぇ。性格に難アリとはいえ、他はパーフェクトじゃないですか」

「千種、エドガーさんは───バイよ」

「!? 」


沈黙が訪れた。


「現代人に多い傾向だから偏見はいけないよ♪ 」

「コイツはドMだから蔑んでいいわよ」

「何をおっしゃいます。可愛い方限定です」


少し早い北風が一陣、過ぎ去った。


「……ロリコン? ショタコン? 」

「犯罪レベルだから真似ちゃダメよ」

「いつからああなんですか? 」

「え───? いつからだったかしら。はそうでもなかったような」

「気になります! 菖蒲さんとエドガーさんの馴れ初め! 」

「やめて! コイツは下僕であってそんな相手じゃないわ! 」


青ざめながら悲痛な叫びをあげる。


「エドガーと初めて会ったとき、か───」

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