波乱万丈な体育祭~パン食い競走~

『皆さん準備はいいですか? 時間短縮のために、全員位置についてくださーい』


くどいなぁ。どんだけだよ。

わらわらとバラバラにスタートラインに集まり出す。

俺たちは五人で固まっていた。


「他のヤツら、俺たちみたいにしてなくないか? 」

「クラスごとっぽいな」


こちらを睨みつける目が一対。


「……畔上、エントリーしてたん? 」

「入れ替えさせたに決まってんだろ! 今までのはマグレだかんな! 本気出したらぜってー勝つ! 」

「競ってくれるのは三浦センセも喜ぶから、取れ高バンザイだけどさ。おまえ、じゃん」

「食わなきゃいい! 食わせりゃいい! 勝てればいい! 」


どストレートなヤツだな。

ちょっと憎めねぇわ。


「その役目、うちのエースなんだわ。俺食い気人間だからな」


俺の肩に腕を回す。

巻き込むなよ。


「要は団体戦だ。だからな! 」

「確かに団体戦だな。根本的にはだけど、だぜ? 」

「な、何種類あるんだ? 」

「そこは実践のみ。事前公開はない。としか告知はなかった」

「正確な種類がわからなければコンプリートしたかどうかなんて……」

「そこは三浦先生の判断だろ」


雑だ、絶対に雑だこれ。


「まぁ、パッと見食堂やコンビニの定番ばかりだから大体でいいんじゃね? 」


めちゃくちゃ細かいこと言って、結局はこうなるんだよな。


「ねぇねぇ、サクラちゃん」

「苗字だと誤解生むんで名前でお願いします」

「じゃあ、ユウタちゃん」

「そもそもなんで『ちゃん』なんですか」

「小さくて可愛いから♪ ぼくの方が可愛いけど! 」

「可愛いは喜んで譲りますので早く要件をお願いします」


男なのにまつ毛はバサバサの美少年センパイが頬を膨らませる。

ちょっと面倒臭い。


「ユウタちゃんがあ〜ん係なんだよね? 」

「もうちょっといいネーミングないんですか? 男同士でちょっと気持ち悪くないですか? 」

「ん? 全然」


キョトンとされた。

たぶん、俺とは真逆人間なんだろうな。


「あ、要件は───よ」

「……え? 」


───パンッ!


競技用ピストルで空高く打ち上げられる。

シュウちゃんセンパイの意図を理解できないまま、反射的に走り出す。


先陣した人は皆、中々口で咥えられず、苦戦している。

足の速さを求められているわけではないので、規則性のないパンたちを目を通して頭で分析する。

1番咥え易いのは───一発でひとつ、針から引き抜く。


「それ! 僕の! 」

「ふみまふぇん! 先陣切るためなのでひとつは我慢してくだはい! 」


俺は、シュウちゃんセンパイの好きな捻りチョコスティックパンを咥え、走り出した。

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