波乱万丈な体育祭~仕組まれた罠~《借り物競争》

俺と譲の嫌な予感はは的中する───。


この雑なお祭り騒ぎを主体とした体育祭がポイント加算のある競技で終わるわけがなかった。


『今回の体育祭は、全種目1位を獲得した一組が優勝となります。おめでとうございます! 圧倒的実力を見せた一組を称えましょう! 運動部率の高い他組を驚異的な実力で差を見せつけてくれました。来年も独走してしまうのか? はたまた更なる驚異的な新入生が入学してくるのか? 今から楽しみですね! 』


雑な締めくくりと共に、まばらな拍手がそこかしこから聞こえてきた。

トロフィーとかそんなものはないらしい。

一組から四組が並べられることもなく、あっさりと幕を閉じ───。


、今年借り物競争で体育祭を〆たいと思います。各クラス一名ずつ、入場門まで速やかにお願いします』


ザワりとさぶいぼが立った。


「よし! 行ってこい! 」


ドンッと隆一に背中を押され、一歩前に出た。

おい、待て……。

うろんな目を向ける。


「采配関係ないイベントじゃねぇの? 」

「俺は食べ過ぎた」

「頑張ってね、優多」


譲にまで後押しをされる。


「……悪意あってじゃないと思う。隆一なりに盛り上げたいんじゃないかな。ノッてあげようよ」


譲に言われたら為す術もない。


『皆さん揃いましたね。では、したクラスからが得られますので、張り切ってどうぞ! 』


そういうことか。

効率至上主義の俺にうってつけだな。

……だがしかし、この判断は軽率だった。


『各々出発してください。です! 』


その言葉と共に皆駆け出す。

学生にとって早帰りは何にも変え難いご褒美だ。

程なく、先に着いた生徒が戸惑っているようだった。


『……尚、今回はとなっております。衣装は事前にこちらで用意していますので、目の前の担当実行委員に紙を渡して受け取ってください。棄権は受付けません。の二択が選べます。拒否権はありませんので、頼まれた人は快く引き受けてくださいね』


目の前に移動式試着室がガラガラやってくる。

自ら入る人、クラスメイトの女子を呼びつける人で二分されそうだ。

ガタイのいいチャイナ服が出てきたり、可愛いナース服だったり。


「チャ、チャイナ服を……」

「ご自分で着られますか? 校内にいる家族、友人、知人に協力要請できますよ」


再度説明されている。

自分で着て走りきったり、着せて一緒に走りきったり。

カヲスな現場が出来つつあった。


「尚、SNSなど、公共に写真を公開することはお断りします。この種目、時間のみとさせていただきます。発見した場合、もやむを得ないとご理解ください。因みに、多種目の写真はこれに付随いたしませんので、ご存分にお願いします」


───捲る。



……おい、喧嘩売ってるのは誰だ。買うぞ、全力で。


「クラシックメイドで……」

「ご自分で着られますか、ご自分で着られますか、ご自分で着られますか」


喧嘩を売られた。よし、この案内係殴っていいな?


「───落ち着け、優多」

「おまえが仕込んだんだろ? 」

「……………取り敢えずだ」

「その間はなんだよ」

「俺が着てやりたいが、ブーイングしか飛ばないのさ! くう! 」

「悔しがってねぇだろ」


そもそもいつからそこにいたんだよ。

視線を感じ、振り向くと案内係がメイド服を抱え、受け取るのを待っていた。


「……一枚多いんすけど」


二枚渡されたと分かった瞬間振り向いたが、測ったかのように他の参加者に駆け寄っていた。

クソ、やられた。けど、まだ策はある。


「エドガーさん」

「なんでしょうか! 優多さん! 」


満面の笑みで飛び出す執事。

呼びつけた優多と呼ばれたイケメン執事。

異常なほど目立った。

目立ちたくないのに目立つんだよ。


「ハウスメイドじゃないですか! 後ろのチャックですか?! 喜ん……」

「いや、俺は着ないです」

「では、どなたかに? 」


俺はニヤリと笑う。


んですよね? 」

「はっ! 私が執事からメイドに?! 」

「見たくないです」


キッパリ言い放った。

喜んで着る人に白羽の矢を差したくない。


「ちょっと 優多! エドだけ呼ぶなんて! メイド服? 着させたい人かしら? はっ! 優多のためなら……」

「菖蒲さんだと似合い過ぎるので。……見たくないですか? のメイド姿」


二人は首を振る。


「───モテモテなあの人に嫌がらせ、したくないですか? 」


ピシャーン! とアニメーションのようなわかりやすい衝撃を顔に顕す二人。


「エド、全力で協力なさい」

「ええ、喜んで」


この二人はわかりやすい。

物理では勝てても、毎度精神面でダメージを受けている。


「相良先生ー! 」

「ああん? ……何かな? 咲良」


周りの視線を気にして、仮面を被る。


「先生方も全員終われば帰れるんですよね?


メイド服を押しつける。


「何を言っているのかな? 自分で着た方が似合うよ」

そうですね」


ちっと小さく舌打ちをした。


『拒否権はありません』


しっかり拾ってくれた。

周りから期待の眼差しが注がれる。


「し、しかたないね。似合わなくても許してね」


盛大に顔を引き攣らせていた。


「ご安心ください! カンペキに仕上げましょう! 」


俺の後ろから現れたエドガーさんが嬉嬉として相良先生を引っ張っていく。


「エドガー、てめ……」

「不安にならずともいいのですよ。私がついておりますよ。翔太様」


───キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


周囲の女子から黄色い声が上がる。

傍から見れば、イケメンとイケメン。

女子の妄想の餌食だ。

俺はもうひとりを物色すべく、周囲を見渡し、見覚えのある人を発見した。


「あれは───高橋兄? 」


紙を見てボケーッと眺めている。


「……なぁ、でもいいのか? 」

「はい、会場内においででしたら」

! 」

「お兄ちゃん待ってたわ! 」


親衛隊の誘いを断り、健気に兄を待っていた妹。

確認もせずに試着室に吸い込まれていく。

ややあって。


「……た、


顔だけ出して青ざめる。


「俺は早く帰りたい。協力しろ、まみる」

「キャッ───」


───ボトボト。


半透明な袋が落ちた。


「い、入れる場所が……」


俺はした。

菖蒲さんより控えめだと視界にすら入らないアレ。

俺はをみた。

待ち構えていた親衛隊も固まっている。


───グニャリ。


一瞬視界が歪んだ。


「まみる様ーーーー!!! 」


虚ろな目をした親衛隊がバンザイをしていた。

彼女が着ているのは───バニーガール。


「そんなものに頼るな。気にする女の気が知れない」


この淫魔兄妹、なのか。

他人に興味が薄過ぎて引きこもりがちな兄インキュバス。

類まれなる絶壁を持つ妹サキュバス。

泣きながら手を引かれ、退場していく。


「……大丈夫か? アレ」

「サキュバスってさ、ボンキュッボンのお姉ちゃんのイメージだよな。───アレがならぬ、かー」


類まれなる絶壁に慈愛を───。


隆一は暇を持て余しているんだろうか。

だったら代われ!


「優多! を近くで使った気配がしたわ! 何もされてない?! 」


野次馬妖怪引き連れて菖蒲さんが真剣な顔をしてやってきた。


「アレなんで、無害です」


高橋妹がいなくなっても未だにバンザイを続ける信者たち。


「引きこもりインキュバスすばるんと、類まれなる絶壁サキュバスまみるんの色々可哀想な末路っすね」

「終わってねぇよ」


終盤は隆一の口がよく滑る。


「クセありすぎでしょ」

「本当に……」


どの口が言うんだ?

吸血姫と雪女。拗らせ方がパない二人。


「はいはい! 害がないら放っておきましょ。今日のところはね。今日はそういうのなしで! 優多くんが終わらなくなっちゃう」


茶たぬきの薫さんが〆てくれる。


そう、俺の悪足掻きはこれからだ。


「センパーイ! 」


二年生の集まりに飛び込んでいく。

当然、全員振り向く。


「あの子可愛い……」

「近くで見ると小柄で華奢じゃん」

「ほんとに男の子? 」


失礼な言葉が聞こえてくるが無視した。


「優多じゃん! 鞠也? 僕? 」

「シュウちゃんセンパイです」

「OK~♪ それ着るの? なに……メイド服? 」

シュウちゃんセンパイがいちばん似合うはずです」


いちばん、を強調した。


「僕ってなんでも似合っちゃうからね♪ 」


軽やかに一緒に戻ってくれる。

丁度試着室から、が出てきた。

後からひょっこりエドガーさんが顔を出す。


「優多さん! 思っていた以上の逸材でした! はっ! いつぞや(さっき)の美少年! 」

「え? 相良先生? 」

「ああん? 」


相当ご立腹のようだ。


「あ、シュウちゃんセンパイもお願いします! 」

「了解いたしました! ささ、シュウ坊っちゃまこちらへ」


程なくして、が出てきた。

モテモテな二人をぎゃふんと言わせるどころか、こっちがダメージを受ける。


「じゃ、行きましょう。退場門まで行けば帰れます」


───キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


───オォォォォーーー!!


歓声が上がる。

頬を好調させた女子の大半、追加で一部男子がこちらを好機の視線で見ている。

ムスッとした相良先生は、化粧によりクールビューティ。

シュウちゃんセンパイは変わらぬ愛想を振りまく。

真ん中にいる俺、恥ずかしい……。


結果、着ないで済んだのに、更なる晒し者になったのは言うまでもない───。






☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆


「ねぇ、今回長かった割に妖怪が友好的過ぎて出番が脇役だったんだけど! 」

「戦いが学生の健全なる戦いに変わっていましたからね」

「……これで終わらないわよね? 」

「文化祭がまだ控えてますし、取り逃したやつを捉えていませんから」


※つづく※

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