再会

一緒に並ぶとわかる。

二人がものすごく似ていることに。

なぜ、気がつかなかったんだろう。

なぜ、気がつけなかったんだろう。


しかし、違和感はそれではなかった。

おなじ場所から出てきたはずの、多くの同志たちがいない。


「な、んで誰もいないの? 」

「え? あ……」


鞠也も今気がついたようだ。


「何を言っているの? がいるじゃない♪ 」

「───したんだ」

「え? 」


夏角はとぼけているだけだった。


「……せっかくの再会を邪魔されたくないでしょ? 」

「やることでかすぎるよ」

「え? 」


二人が何の話をしているかわからない桜侑。

ハッとして足元を見た。見てしまった。


「え……」


夏角の影。それは───通常より大きく、が生えていた。

桜侑は息を飲む。


「桜侑♪ 昔俺に言ってくれたこと覚えてる? ……

「待って! 」

「待たないよ♪ 、そう言ってくれたんだよ♪ になるのを待ってたよ♪ 」

「子どもの口約束は無効だ! 」


鞠也が必死になっている。

逆らってはいけないと警告音が頭でコダマするが、堪えた。

でなければ────。


「ダメだよ♪ 桜侑は俺のモノ♪ 」

「そういう意味じゃない! 桜侑ねぇには───! 」


彼氏がいる、そう言おうとして躊躇ためらった。

何をするか分からない。


「え? 」


そんな約束したかさえ、桜侑は覚えていない。

鞠也の兄、それは顔だけで理解した。

憧れていた人だから嬉しいはずなのに、なにか違う。

嬉しい言葉ばかり言ってくれているのに、なにか違う。


玲二のことなど頭になかった。

思い出しもしなかった。

対峙する二人しか見えていない。


「人間、じゃない? 」


桜侑には影しか見えていなかった。

話声など耳に届いていなかった。


「……やりすぎたかな? 」


少し戸惑う夏角。

一瞬で空気が安らいだ。


「ごめんごめん♪ 桜侑が誰かに盗られたらって思ったら……」

「やりすぎ。まだ未来は分からないんだからね。それに10年は待たせすぎだよ」

「この世界でやっていくには先立つものがいるじゃない♪ 」

「だからって……」

「仕方なかったんだよ……。あの時の桜侑は俺にべったりだったんだもん♪ ……」


桜侑の問いに答えていない。

鞠也は桜侑と夏角を交互に見る。


「隠し通せるもんじゃないよ……」

「まぁね♪ 桜侑~♪ 」


一瞬で背中に羽が出現した。

髪とおなじ、薄紫の大きな一対の羽。


「あ……」


羽の形は烏。しかし、色味は少し派手だった。


……だよ♪


桜侑は固まったまま動かず、目を見開いていた。

初めてではない気がした。

薄ぼんやりと脳内にこびりついていた輪郭。


「前にも、見たこと、ある……」


思い出せるはずもない、古い記憶。

だが、おかしかったのも無理はない。

下手に思い出さないようにと記憶を操作されていたのだから。


「今解除したら修羅場りそう……」


ハッと、今、玲二を思い出した。

昔から桜侑の言葉で桜侑を待ち続けた妖怪と溢れすぎる愛情を注ぐ彼氏

傍で見守ってくれていた弟分……。


「……桜侑ねぇ、頼むから僕を数に含まないで」


いつもの大きなリアクションでガーンを表現する桜侑。


「なんで私の考えが……! 」

「私のために争わないで! とかまで考えようとしてたならやめて。めんどくさい」

「鞠也ちゃん、ひどい! 考え読むのも先読みするのもやめて! 」

「わかり易すぎでしょ。バカすぎるよ」


変わらないとんちんかんなコントを繰り広げそうになる。

夏角をほっといたままで。


「妖怪のくだりはいいわけ? 」

「え? だって、アプリにも書いてあるし」

「いや、2次元と3次元……あ……」


鞠也は思い出した。この人は、2次元と3次元の違いがわからないことを。

一瞬、真人間のような反応を見せたがやっぱり原点に戻っていた。

ありがたいようで、しかしながら、理解も納得にも至らない。

そこにいるんだから信じる、なんて次元の話でもないのだから。


アニメなどで人外が取り沙汰される昨今。

現実にまでは対応できないことの方が普通。

けれど、桜侑はそれに付随しないのだ。

すべては延長線上にある。

無理に説明したところで、真意は伝わりきらない。

断片的には理解出来ても、咀嚼しきれないからだ。

それは記憶操作以前の、性格の問題。


「……夏角にぃ、子どもなら可愛いけどさ。大人になってまで同じなんだよ? 僕が10年掛けてもどうにもできなかった。どうにかできるの? 」

「ちょっと鞠也ちゃん! 私がアホの子みたいに言わないで! 」

「自覚あるならどうにかしてよ……」

「おバカなところが可愛いんだよ♪ 」


鞠也は座り込み、頭を抱えた。

もうどうにでもなれ、僕を巻き込むなという意思表示。

残念ながらそんな配慮などしてくれる人などいなかった。


「鞠也ちゃん?! 頭痛いの?! 」

「お兄ちゃんが撫で撫でする?! 」


頭を掻きむしる。


「黙れ! 」


堪らんとばかりに星明かりのキレイな夜空に向かって叫んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る