明るい舞台

「───十年、時は熟した」


暗がりの中、ひとりの青年が瞳を細め、光がこぼれでる先に手をかざす。


「夏角! なにしてんの、行くよ! 」


半開きだった扉が開き、光が部屋に満ちる。


「うん! 」


夏角と呼ばれた青年が、ふにゃっと笑顔になった。

人好きする優しい紫水晶のような双眸。ふわっとして可愛らしい。

対するもまた青年。対称的に勝ち気そうな少年風。キラキラとした黒曜石のような瞳。


向かう先は光眩しい舞台。

響くは歓喜に満ちた女性の歓声。

舞台裏ではイメージカラーのタキシードに身を包んだメンバーが待ち構えている。


「夏角、今日も姫たちが待ってるぜ」

「パーティを始めよう」

「……さっさと行こう」

「うん♪︎ 」


五人揃うと舞台の光の中に吸い込まれていった。



。・:+°。・:+°。・:+°。・:+°。・:+°



「今日も夏角くん、可愛かったァ! 」


頬を蒸気させながら幸せに浸る桜侑。

隣には鞠也。


「……なんでボクここにいるのカナ」

「よかったでしょ?! 歌声! 立ち振る舞い! うへへへへ」

「カッコイイけどさ……」


兄の仕事ぶりを見るのは弟として気になるところではあった。

葛西に話したことを詰め寄られた。

濃く反応する方で中和する。

単純明快な桜侑には効果的。


「……お互いでかくなったなとは思ったけど、複雑だわ」

「なぁにー?! 」


複雑な心境の鞠也が着いてきていないことに、100メートルほど先に進んでいた桜侑は気がつくのも遅かった。


「なんでもない」


長い足であっという間に追いつく。


「……ねぇ、鞠也ちゃん」

「うん? 」

「夏角くん、お兄ちゃんなんだよね? 私、忘れちゃったの? まるで───まるで私と夏角くんが昔会ったことあるって言われてるみたいだった」


忘れているならそのままにしておきたい気持ちと、このままウヤムヤにしたくない気持ちがせめぎ合う鞠也。


「いや、みたいじゃなく、。10年前に───」

「10年前? 」


考える暇のない桜侑がうーんと頭を抱えて思い出そうとする。

今の夏角しか浮かんでこない。

子どもの夏角を想像しようと頭をフル回転しようとした。


───キィーッ


思考を遮るかのように一台のスポーツカーが寒空の中、寒々しく二人の前に停車した。


「───もしやと思ったんだ♪ ♪ 」


季節感台無しの黄色い高級車から降り立ったのは───斎賀夏角、その人だった。


「……え? 」

「は? 」


人好きするような緩い笑顔で近づいてくる。


「不審者で通報するよ、夏角にぃ」


桜侑の前に立ち塞がるように、兄を睨みつけた。


「あれぇ? 鞠也ぁ♪ おっきくなったねぇ♪


弟の警戒心丸出しの発言など聞こえなかったかのようにふにゃっと笑う。


「夏角にぃがでかくなれば僕だってでかくなるでしょ? ホントバカだね」

「えへへへへ♪ 鞠也はいい子だねぇ♪ ずっとしてくれてたんだぁ♪

「なっ! 話を聞いてよ! 」


自分のペースでしか話さない兄に内心イライラしていた。


「昔からそうだ。自分勝手なとこ、変わってないよね」

「うふふふ♪ まぁいいや♪ 姫、会いたかったよ♪ 」


駄々っ子をいなすかのように桜侑に近づく。

桜侑は固まっていた。

目の前にいるのは、憧れの夏角。

アプリやライブとなんら変わらない推しの彼。

でもなんだろう。この不思議な感覚は───。


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