波乱万丈な体育祭~挨拶代わりのリレー~

結局、あんな投げやりな虚勢で何故か引き下がった二人。

違和感を覚えながらも早く立ち去りたくて。

極力関わらなければいいか。

経験上、そんな単純には行かないだろうけど一人でいるのを避けよう、そうしよう。


「……優多、今日距離近けぇんだけどどうした? 昨日なんかあったか? 」


珍しく引きつっている隆一。


「うん、あの二人ヤバかった。できるだけ一緒にいてくれ……」

「了解了解。でも目標は達したみてぇじゃん」


俺たちの目線の先には、クラスが違うのに高橋妹に引っ付かれている高橋兄の姿があった。

ひどく面倒そうな顔をしている。


「傍から見たら仲良さげなんだけどなぁ」

「それな。嫌なら兄妹なんだし、振り切ってもいいだろうし」


正体をあっさり明かしたのは多分、俺の周りに妖怪がいることを理解したからでもあるだろう。


「まぁ、あれじゃね? 電話んときのアイツ、必死だったもんな。兄貴のこと大好きなんだよ」

「てことは、少なくとも兄貴も妹を大事に思ってるってことかな」


チラリと俺を見た。ん?


「……優多一人っ子だもんな。きょうだいってやつぁ、複雑なのよ。1番近いから色々わかるけど、近いからこそ反発しちまう時もある。知ってるからこそ、近づき過ぎる。距離感が他人より不安定になるんさ」


俺の知らないことを隆一は教えてくれる。

きょうだいって難しいんだな。


「──一線を超えるのは2次元だけだからな」

「アイツら、2次元ジャンルだぞ」


見せられないのが残念なほどに面白い顔をする隆一。


「詳しく! 」


食いついて来た。


「インキュバスとサキュバスだとさ」

「あれか! モテモテオーラムンムン!

「……まぁ、大体そんなもん」


妹がモテるのが能力によるものであることは明確だ。てことは、兄貴もか。

羨ましいな! モテたいわ! 普通の女子に! 普通の女子に!

大事なことだから2回……。


「──優多、顔に出てるぞ。気持ちは痛いほど分かるからな」

「同士よ! 」


ガシッと固く手を握り合う。


「優多ーー! 隆一ー! 次リレーだぞー?!


譲がグラウンドから。もうそんな時間か。


「行くぞ! 相棒! 」

「おうよ! 相棒! 」


敵陣に乗り込む勢いで前進する。


「急げよ! 」


あ、やっぱり?

2人で苦笑いし合いながら駆け出した。


選手は3人ずつ。1周2000mとちょっと長めを1周ずつ走る。

うちのクラスに陸上部はいない。

俺と隆一は帰宅部。譲は週一しかない天文学部。

仲がいいからと俺たち3人になった。

ほかのクラスは運動部ばかりだ。


公立校の割に七限目まであるから、しっかり17時まである。

それからホームルームがあって、部活動の時間は19時まである。

学校自体は20時まで開いているから、ギリギリまでやってる感じ。

土曜日は昔ながらの半ドンって言う、昼で帰ることが出来るわけじゃないけど、5時限目まではある。少し長めのホームルームをして、15時まで。

だから部活動は土日がメインなわけだ。

普通ならば部活動が義務づけられている場合が多いけど、うちは自由なんだよな。

だからやりたいやつがやる。

……けど、部活動に入ってるやつがすごいなんて決まっちゃいない。


「……敵さん、本気みたいだな」

「んじゃま、譲は陽動な」

「はいはい」


譲は差程早いわけでもない。

敵の持久力を図るにはうってつけだ。

アンカーは隆一。俺は2番手。


「データはあるんだろ? 」

「あちらさんにもあると思うぜ? 中坊んときの俺の勇姿がな」

「俺のはねぇの? 」

「部活やってなかったし、知らないんじゃね? 」


俺は中学も部活をしていない。道場通い。


「……ま、数時間全力疾走できる俺らの敵じゃねぇよ」


不敵に笑う。変な笑い方だけど。

そうこうしているうちに持ち場に誘導される。

3人で拳を突き合わせて譲を見送る。


──パンッ!


競技用ピストルの音が響く。

スタートダッシュに問題は無い。

遅くはないが、運動部の走り込みには適うわけがなく、引き離されていく。

だが、これは俺らの作戦。

譲が2000m走り切れば問題ない。

早いやつが500mに差し掛かり、スタンバイの指示が出る。

通常なら焦ると思われている中、俺は涼しい顔をしていた。

諦めていると思われているのか、馬鹿にした顔がチラつく。


「女みたいな顔して走れんのか? 」


小声でもしっかり聞こえた。

手ぇ抜いてやろうと思ったけど、止めだ。

隆一に目で合図を送る。

やれやれって顔してやがる。

目に物言わせてやんよ。


少しづつ近づいてくる。

一人、また一人とバトンが渡されていく。

1位のクラスに500m以上差をつけられ、ビリになる譲。


「ごめん! 優多! 」


呼吸乱れてもしっかりバトンを握らせてくれた。


「任せろ」


1歩で力を込める。本気でやってやんよ。

秒で加速し、あっという間に抜いていく。

1位にはほざいてたヤツ。更に加速していく。

息も乱さず、半分の1000m前で抜き去った。

抜かれてから慌てて加速をするが、もう遅い。

勢いを落とさず、そのまま引き離していく。

目の前に隆一らが見える。

普通ならばバトンを落とさないようにバランスを取っていくのだろう。

だけど、俺たちは作法を知らない。


「隆一いぃぃぃぃ! 」


更なる加速を続ける。


──パシッ!


手のひらに叩きつけ、バトンを掴むまでは手を外さない。

すぐにガシッと受けとる。

パッと離す。と、同時に走り出す。


「行くぜぇぇえええ! 」


グラウンドの薄い砂を巻き上げ、俺以上のスピードで滑走する。

アイツに助走という概念は存在しない。


「……なぁ、優多。アレ、大丈夫? 」

「あー、いいんじゃね? 」


1000mどころじゃなく引き離し、ゴールテープを切っても尚止まらない隆一は、そのままの勢いで───網フェンスに激突した。

かなり凹ませたが、人間に突き抜ける力などなく、一瞬で停止。

我らが猪男は止まった。網にくい込みながら。


見事、圧倒的速さで1位をもぎ取った。

2人して回収しに行ったけど。

……俺より気にしてたじゃん、隆一のやつ。

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