女王様と引きこもり

「文化祭待ち遠しいな! 」

「……俺は胃が痛てぇよ」

「まぁまぁ、先ずは体育祭からだから」


俺がお通夜状態の中。


「……ねぇ、明日こそ一緒にいこ? そんなこと言わないでよ。あたし淋しい。だったらあたしも──! 」


──プツッ、ツーツーツー。


「なぁ、あれ高橋じゃないか? 」

「テンションひっく。今日キレ悪かったけど通話相手が原因かぁ? 」


関わりたくはないけど、見捨てるみたいでいやなんだよな。


「──高橋」


気がついたら、話し掛けていた。


「咲良、くん? 」


やっぱりいつもの覇気がない。


「おまえどうしたよ? 」


目を逸らされた。いよいよもっておかしい。

堂々としたいけ好かないやつだけど。


「……が」

「ん? 」

「お兄ちゃんが……学校に来ないのよ」

「兄? 」


俺は隆一を見る。


「ああ、隣のクラスの──高橋兄かぁ」

「高橋兄? 」

「高橋すばる、だっけ? 」


静かに高橋が頷く。


「学校来てねぇの? 」


再度頷いた。


「俺の情報が確かなら、高橋兄は──ヒッキーだ」

「ヒッキー? 」

「引きこもり? 」


イマドキ引きこもりはめずらしくない。

小学生だって不登校になる時代。

馴染めなければ不登校になる。

何が原因かは人それぞれだが、1回来なくなれば復帰が中々難しいものとなる。

縁のないこととはいえ、認識が違うだけで理解できないわけじゃない。


「……咲良くん」


そんなことを考えていたら、また呼ばれた。


「なんだよ? 」


嫌な予感がした。


「お願い、あたしのうちにきて─────」





──今俺はある扉の前に立っていた。

なんで俺ここにいるんだっけ。あ、そうそう。高橋に頼まれたんだった。

いきなりの招待を受けたんだった。

そんなことすら忘れるくらい───難航していた。


ここは高橋兄妹の住むマンション。

両親は海外赴任で二人暮し。

正反対の性格の兄妹。

ワガママな性格の割りに兄思いらしい。


「おーい、高橋ー! 」


何度も呼び掛けたが、うんともすんとも……。

諦めかけたとき───────。


「……お兄ちゃん、


高橋妹が意味不明なことを言った。


「は? おまえ、三つ巴の意味わかってんのか? 」


コイツの成績は隆一ほどじゃないが、芳しくない。適当なことを言っているんだろう。

しかし、その中になぜ俺がいるのか。


──ザワり。


嫌な予感が増した。


「あ、間違っちゃった。Pしましょうふ……」


俺を見て嫌な笑いをした。

ややあって───────。


『俺は……男に興味はない』


まさかの返答があった。中の主はただ黙りを決めていただけだったらしい。


「出てきたらわかるわよ」


意味深なことを言う。

寒気がした。更に嫌な予感が増す。

こんな時に限って隆一がいない。

兄貴が人見知りだからと、俺だけを指名したからだ。

譲の方がこういうことは適任だと思う。

──一抹の不安が俺を襲う。

このパターンはアレかな。


──ギィ……。


静かに扉が開かれた。ごく普通の扉なのに、やけに重々しく聞こえるのは増長効果か。


扉の内側からも重い空気が漂う。

正直、帰りたい。

……人影が一つ。

血色の悪い男が立っていた。

一卵性なのか、顔は似てるかな。

すばるだっけ? めっちゃ睨まれてね?


「お兄ちゃん─────! 」


嬉しそうな高橋妹の声が後ろからした。

俺はなにをしに来たか半ばよく分からないまま、兄貴の目線から逃れようと踵を返そうとした瞬間……。


「うわっ! ちかっ! 」


兄貴が足音も立てずに目と鼻の先にいた。

キスできそうなくらい至近距離に。

気持ち悪いからやめてくれ。


「おまえ、する……」


──ガッ!


更に近づいてきた顔を掴む。


「……をつける一言をありがとう。それ以上近寄んな」


コイツもか。


「──ホント、いい匂い。あたしの能力効かないとか気になっちゃう」


!? 迂闊だった。後ろには妹がいたんだった。

目の前には至近距離の高橋兄、後ろにはピッタリとささやかな胸を押し付けて抱きついてくる高橋妹。

絶望的な状態なんだけど。


「……おまえら兄妹、だな」


ピタリと2人の動きが止まる。


「まさか同級生にいるとは思いもしなかったけどな。で? さすがにわからねぇけど、何の妖怪? 」


慣れと虚勢半々。

学生してんならこちら側の可能性は高い。

従って、敵意はないはずだ。

安易な考えではあるけれど。


「……お兄ちゃん」


いつもの勝気さがない声。


「わかった。──俺はインキュバス、まみるはサキュバスだ」


予想の範疇外来ちゃったよ。夢魔じゃん。淫魔じゃん。いや、変態カテゴリーからは逸脱してないか。


「──兄貴はもう大丈夫だな。俺は帰る」

「……簡単に帰すと思ってるぅ? 」

「コイツなら、やぶさかじゃない」


もう叫ばないぞ。同年代なら何とか───。


「俺に手を出すと──面倒臭い奴らがいるからやめろ。チート級に強いんだよ……」


俺、情けないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る