優多のピンチ

「はーい! 文化祭の出し物決めたいと思いまーす! 」


ザワザワしていた教室が、文化祭の一言で期待に静まり返る。

教壇で指揮を執っているのは学級委員長の広瀬ひろせ有紗ありさ。以下にもな三つ編みお下げにふち眼鏡。無駄話は許さないと眼鏡が光る。


「挙手で候補をお願いします! 」


ビシッと眼鏡に手を当てて、期待を裏切らない。


「はーい! 喫茶店したい! 」

「えー? 射撃しようぜー」

「的屋いいねー」

「それじゃ女子楽しくなーい」

「演劇したーい」

「お化け屋敷とかしたいよ」


広瀬の願い虚しく、ザワザワと好き勝手言い出す。自分の希望があるのはいいことだけど、これではまとまらない。


「静かに──!」


やっぱり怒った。


「はいはーい! だったらでかい講堂先に取っちまって全部やろうぜ! お祭りなんだからやりたいやつをやりたいやつがやりゃいいじゃん」


隆一、それじゃ意味がない。

仕方ない……。


「わりぃな、委員長。いいか? 」


ワナワナとしている広瀬がこちらを向き、ややあって。


「……咲良君、どうぞ」


俺は頷く。


「講堂を占拠するのは難しい。バンドや演劇部とかが黙っちゃいない。なら──確実なこの教室でやろう」

「どうやんの? 」


分かってて無謀なこと言ったのは分かっていたけど、ムカつく。ニヤニヤ顔が。


「全部やりたいなら──メインは喫茶店。食事の提供と共にゲームとして射撃を取り入れたらいい。お化け屋敷は衣装、演劇は演出で取り入れたらどうだろう。かなりクオリティを求められっけど、話題にゃなる」


ザワついていた教室がおおーっと歓声に変わる。かなり無理矢理ではあったけれど、どうにか希望は取り入れた。


「──優多、それだけじゃなあ? 」

「んだよ、さっさとおまえの狙いを言え」


嫌な予感しかしない。


「よくぞ振ってくれた! その名も『ハロウィン喫茶』! 衣装は喫茶店らしくメイドと執事! ──メイド陣におまえがいてこそ完成する! 」

「──だが断る! 」


ああ、そんなこったろうと思ったよ!

コイツが何か不穏なことを考えないわけねえ。


「はーい! 優多にメイド服着せたいヤツ、手ぇあげろー! 」

「ちょ──! 」


……図られた。物の見事に俺以外全員が手をあげちまっていた。


「……譲」

「ごめん。ちょっと似合いそうって思っちゃって……」


目を逸らしやがった。


「……委員長」

「ごめんなさい。思わず……」


真面目な広瀬まで目を逸らしやがった。


「安心しろ! 俺も着てやる! 」


しかし、隆一のメイド服姿を見たいヤツはおらず、ブーイングが巻き起こった。


「なんだよー。じゃあ、譲着ろよ」

「……え? 俺? 」


意外な方向に矛先が向いた。

確かに──どちらかと言うと、綺麗な顔立ちしてるよな。


「坂田君ならありかも……」

「美人になりそうじゃね? 」


ザワザワと賛同の声しか上がらない。


「できれば──俺が運命を共にしたかったが、頼む譲。優多1人じゃ、淋しいだろ? 」


いけしゃあしゃあと譲の肩を掴む。

たぶん──計算の内だと悟る。


「て、抵抗はないけど着たことないんだよな。確かに1人は辛いよな」


断れよ──! 流されるなよ! 俺だってねえよ!


……ハッとする。

みんな来る予定。


終わった───────。

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