もうすぐ文化祭


──色々と聞きたいことはあるけど俺たちは学生。話題はすぐにやるべきことにシフトする。


「やべ! もうこんな時間じゃん! 」


「あ、10時?! 明日、HRで文化祭の出し物決めるんじゃなかったっけ? 」


「そういやそんな話してたな」


そう、あと二週間で初めての体育祭。更に来月には文化祭と2つの大イベントが待ち受けている。


「どこまで許容範囲があるかだよなぁ」


「それ! 色々やりたいよな! 」


「……隆一はバカ騒ぎしてぇだけだろ? 」


自分たちの力でどこまで出来るのか、学校は勉強だけじゃない。協力し合う大切さを学ぶ場所。学生の内にしか出来ないことを全力で挑戦する、それが醍醐味である。

ただ勉強するだけじゃ楽しくねぇよ。友だちとバカするのも今しか出来ない。今できることをしなくちゃな。


「……楽しそうね。ブンカサイってなぁに? 」


甘ロリのロリっ子リリィがいつの間にかそこにいた。


「え?  なんでこんな小さな子が……」


「ああ、この子は保護してる妖怪のリリィだよ」


「こぉんな可愛いちびが妖怪とか未だに信じられねぇよなぁ」


譲は目をぱちくりしている。妖怪には耐性がありそうだけど、普通はびっくりするよな。


「聞いてるの? ブンカサイってなんなの? 」


『リリィ、ブンカサイハオマツリダヨ』


さりげにくまのベティが現れる。


「くま、のヌイグルミ? 」


『ハジメマシテ、ニンゲンノショウネン。カノジョハニンギョウツカイリリィ。オレハベティ、ヨロシク』


わらわらとヌイグルミたちが俺たちを取り囲む。


「あ、うん。はじめまして、俺は坂田譲で優多たちの友人だよって、えええええ?! 多くね?! 」


「おまえら、揃ったら狭いだろ」


『アタシタチダッテ、オハナシシタイワ』


うさぎのエレノワがずいっと出てくる。

パンダのマリオン、ゴリラのキャシィ、アライグマのフランソワ、ネコのアンディ、イヌのライオネル、ダチョウのベス、カエルのクララ。

統一感のないコイツら、みんな一メートル大のデカイヌイグルミ。


「へぇ、楽しそうね。あたしたち行きたい」


「当日、菖蒲さんとエドガーさんに連れてきてもらいな」


「ええ、わかったわ。楽しみにしてるわね。……迷惑を掛けてしまった人間の世界、知りたいし。あら? ショウタはどうなの? 」


あれ? リリィは相良先生が先生って理解してない? あ、譲にまだ言ってなかったような。


「相良センセーはうちの学校のセンセーだから、来たら白衣着てるのに会えるぜぇ」


……説明の前に言っちまった。


「え? なに? 相良先生、ここ出入りしてんの? 何で? 」


そうなるよな。


「……相良先生は不幸な事故で、半人半妖になっちまったんだよ。口裂け男にな」


「新しい都市伝説作った感じ? 」


譲は自分を平凡平凡というけれど、隆一の猪突猛進型順応性と違って、冷静な割りに周りに溶け込むのが上手い。長所に気がついていないイイヤツ。俺たち、バランスいいだろ?


「エドガーさん! 俺ら帰るなー! って譲、今どこすんでんの? 」


隆一のこういうとこ、すごく助かってる。


「洞庭藍荘って、做々瘰さんが管理人してるアパートに。あ、そういえば、あの菖蒲さんって人が大家さんって聞いたよ」


……は?


「迎えに来た佳樹さんと狸の姉ちゃん以外にも妖怪いんのか?! 佳樹さん、何の妖怪?! 」


それって、妖怪アパートなんじゃ……。あれ? 菖蒲さんが大家……ってことは……まさか。


……菖蒲さん、ちゃんと仕事してたんだなー。


「いや、佳樹さんは人間。あとは蛇女の千種さんと火車車輪の大しか会ってないかな。あと5人いるらしいけど、今日越してきたばかりでよく知らないんだよ」


……すぐ受け入れるのはある意味、長所だよな。


「あれ? 今日? 」


「優多知らねぇの? 譲の親父さん出張で、譲だけこっち残ったの」


聞いてねぇぞ。


「悪い。たまたま隆一に探してるの見られてたみたいで……」


そういうとこ、目敏いよな。それが隆一の良いとこなんだけどな。人を無意識で観察するとこ。


「譲くん! 俺たちと帰ろうね~♪ 」


「……帰る前にあの人、せめてフリフリエプロン外させろ。どっかで捕まるぞ」


「あ、うん……」


一気に妖怪増えたなぁ。……文化祭、不安になってきたんだけど。

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