ぽんぽこお茶会
一階に降り、玄関から真っ直ぐ行った突き当たり。薫さんに言われた場所。そこには硝子格子のシックなウッドドア。磨りガラスなので、時折人影がみえる程度。
「あの、失礼します。薫さん? 」
ドアノブを回し中に入る。
「あ、やっときたわ! お茶が沸騰しそうだったわよ! 」
笑顔のまま言った瞬間、薫さんの頭からキュー! という音と共に蒸気が上がった。同時に少し顔も赤い。
「え?! 」
「あ、《(沸騰》》した」
大人しく座っていた千種さんが事も無げにいう。
え? え? これはまさか……!
「あ、だめ……」
薫さんが倒れそうになって慌てて体を支えた。
「あっつ! 」
「……譲はこっち。火傷じゃすまないわよ」
引き離されるのと、薫さんが絨毯に倒れ込むのは同時だった。振り向くと、做々瘰さんの冷たい手が俺の手を瞬間冷却してくれる。
ぼんっと大きな音に向き直ると、そこには茶釜を乗せた茶狸が目を回していた。
「え? 」
真っ直ぐ倒れたからか、茶釜の蓋は開いておらず、お湯が飛ぶこともなく済む。
いや! そういうことじゃなくて!
「薫、さん? 薫さん?!だ、だだだだだだ大丈夫ですか?! 」
確信するしかない。ならばとる行動は一つしかない。狸になった薫さんの安否確認だ。
「暫くしたら目を覚ますわよ」
蓋を開け、おたまで器用にお湯を掬う千種さんは、さっきのホラーが嘘かのように冷静だ。
まさかこれも恒例行事?!
「千種、紅茶がいいわ」
何事もなかったように、薫さんを放置してロングソファに座る做々瘰さん。
ソファーはウッドグリーン、自然色がリビングに調和を与えている。
って、いいの!? ホントにいいの!? 薫さん伸びてるよ?!
「やぁ、遅れたね。みんな、ちょっと待っててね♪ 」
着替えてきたらしい佳樹さん。
タンクトップ?! メガネにタンクトップ?! しかも、短パン……。
そんな彼はいそいそとフリフリエプロンをつけ、自然に鍋掴みで薫さんを抱えてキッチンに入っていった。
「ちょっ! 薫さん! 薫さん! 」
流石に声に出た。佳樹さんはにこやかなままでカウンターに薫さんを置く。まるで物扱い……。
薫さんをこのチャンスに狸鍋にするなんてことは……ないよな?
「あ、よかった。まだお湯があった」
茶釜をカポッと外し、お湯を鍋に豪快に注いでいく。そして何事もなかったようにスポンと戻した。
「……薫は自発型給湯器。光熱費がかなり助かってるわ」
この人、管理人らしいこと初めて言った気がする……。だけど、妖怪の力の使い道……。
その間も佳樹さんの手は止まらない。手際いいな。
「チビタくん! お願い♪ 」
──バタン! ギュンッ!
あれ? 今何か通りすぎた?
佳樹さんの構えたフライパンの下に火の輪が浮かんでいる。目を丸くしていると。
「チビタくんも住人だよ。火車車輪の男の子。お鍋やフライパンにちょうどいいんだよ! 」
いや、ちょうどいいとかの話じゃ……。
「チビタも貢献してくれて、家計が助かってるの」
住人使うなら家賃どうにかするべきじゃ……。
──妖怪はこわいイメージがあった。けれど今会った人たちは温かい、人間味溢れる妖怪に思えたんだ……むしろ……いや……。
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