夢現、霧晴れて
──ここはどこだろう?
あれから、お茶会のような夕食をワイワイ食べた。家族で囲んで食べたことなんて小さいときしかない俺には新鮮で、温かかった。父さんは仕事、母さんは二人だと家事に掛かりきりになる。必然的に一人で飯を食う。当たり前だと思っていた。
火車車輪の少年は学ランを来ていて、中学生と言っていた。幼さが残る小柄で元気な少年・
「へへ! 兄ちゃん出来た! 何かあったら言ってくれよな! ばびゅーん! って兄ちゃんとこ行くかんな! 」
逆立つ短髪を揺らしながら、にかっとする。純粋すぎて目がくらみそうだ。
メガネにタンクトップ、短パンにフリフリエプロンという、直視を控えたいスタイルだった佳樹さんの手料理は思った以上に美味しかった。
お酒が入ったのか、真っ先に出会った千種さんが脱皮を始めて、そこで彼女が蛇女なんだと知るびっくりイベントがあったり。ああ、足を使わずに腕で這ってきたのは習性……。
でも、誰も彼もが温かかった。まだ半分しか出会えていないけど。佳樹さんと俺以外に人間はいるのかな?
色々と騒ぎ、気がつくと皆でそこに寝てしまっていた。
──俺は霧の中を歩いていた。
遠くに人影が見える。紫の髪。 做々瘰さん? フィット感のある黒いトップス、白いミニスカート、黒いニーハイソックス。俺の知っている做々瘰さんはセーラー服だけど、何だか違和感で。耳の上を括ってサイドテールを作っているのも違和感で。
無表情のまま、歩いていく。何だか胸騒ぎがして後を追い掛ける。変わらず周りは霧で囲まれていて、どこを歩いているのかもわからない。ただただ目印は做々瘰さんだった。追い掛けなくちゃいけない。そんな気がした。俺は忘れてはいない。『私は認めてない』そういったことを。
だけど、感情表現が苦手だから誤解も多かったんじゃないかと思う。分かってくれないならいっそ、とか考えてしまう気がしてすごく心配だったんだ。まるで別人みたいな格好で、『私は認めてない』といったときのあの感情は……"嫉妬"。彼女は誰かに嫉妬している。それは誰なのか。きっと探しているんだ、"嫉妬対象"を。
なんでそう思うんだろう。なんで俺は必死に彼女を追うんだろう。なんで、なんで……"危険"だと思うんだろう。ただただ霧の向こうの做々瘰さんを追い掛けた。
……どれくらい追い掛けたろう。俺に戦慄が走る。
──彼女の前に誰かがいる!
遠くからでも伝わる做々瘰さんの敵意を感じた。
「……見つけたわ。あなたが! 」
俺は耳を疑う。出会ったばかりだからかもしれないが、彼女があんな大きな声を発したのを始めて聞いた。本気だ! 何となくそう思った。だから……。
「ダメだ!! 做々瘰さん!! 」
俺は叫んだ。同時に視界が開け、驚いて振り向いた彼女と対峙する相手の顔をはっきりと視認した。
相手はよく知る人間だった。嘘だろ?!
──俺はそいつの名前を叫んだ。
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