管理人と大家の関係

「大丈夫だよ。あ、做々瘰ちゃんがいうお姉ちゃんっていうのは、ここの大家さんのこと。さんっていって、吸血姫ヴァンパイア

なんだ。做々瘰ちゃんは菖蒲さんを特別視してる感じかな」


そんなすごい人、妖怪?  がいるんだ。


「とても個性的だけど、可愛らしい人だよ。……ここ三年くらい顔を出してないから做々瘰ちゃん、淋しくてイライラしてるみたいなんだ。物騒な発言しても流してあげて」


初対面でそんなことを言われても、中々慣れるものじゃない。

このアパートにどれだけの妖怪と人間がいるんだろう。俺は初日から大いに不安になった。


「……これ」


久遠寺さんがすっと手をこちらにつきだす。


「え?  」


ぷらんと鍵が垂れ下がった。


「……譲の部屋は二階の真ん中、203号室。確認したら、リビングで薫たちが待ってるわ。それと、ここではみな、ファーストネームね」


久遠寺さんは自然に名前を呼んでくれた。鍵を受けとる。


「えっと、ささらさん?  」


受け取った別の手をいきなり、掴まれた。


「做、々、瘰と書いて、ささら」


……今わかった。做々瘰さんはただ話すことが苦手で、表現が堅苦しいだけ。本当はいい人、妖怪なんだって。大家さんが大好きだから極端な感じになってしまう不器用な。

思わず、口が緩む。


「ありがとうございます。古風でいいお名前ですね」


青白い做々瘰さんの顔がほんのり赤くなる。何だがつられて俺まで照れてしまった。……なんか、可愛い人だな。


「打ち解けたようでよかったよかった。じゃ、男同士、譲くんは俺が連れてくよ」


做々瘰さんは頷いた。手を離すと部屋にそのまま入ってしまった。


「えっと、佳樹、さん」


「お?  呼んでくれて嬉しいな。なんだい?  因みに独身だよ♪  」


聞きたいことじゃないし、既婚ならこんな安アパートにいないと思う。この人、いい人だけど何か変だ。


「いえ、ここには渡ry……じゃなかった、千種さんや薫さんみたいな奇抜な人ばかりなんですか?  」


毎回あんな登場されたらいつか叫ぶ。いや、次回叫ぶ。


「ん~?  二人に会ったの?  」


「はい……お出迎えが、ホラーでした」


口許を押さえて声を抑えて笑っている。


「ごめんごめん。そっか、にあたったんだね!  いや、失礼。千種ちゃんは日常はホラーじゃないから安心して。今回は千種ちゃん回か。だよ☆  」


いい性格してんな、この人。

今回は、ってことは、毎回誰かしらホラーに……。

階段をギシギシ言わせながら上がっていると、尚更寒気がする。


「あの、パッと見わからないんですが、見分けかたってあるんですか?  」


「ん?  逆にある?  おなじに見えるって大事じゃない?  」


俺はバカなことをいった。


「不動産屋さんも人を選んでる。君なら大丈夫だって思ったから、ここを紹介した。君なら真摯に向き合える。俺は信じているよ。……さぁ、ここが君の部屋だよ。ようこそ『洞庭藍とうていらん荘』へ」


ドアノブを引いて開けてくれた。ふわりと風が頬を撫でていく。正面には大き窓。そこから燦々とした太陽が隙間から見える木が一本。優しく光と風に歓迎された気分。


「……俺、頑張ってみます」


「うんうん。じゃ、薫ちゃんたちのとこ行っておいで。すぎて沸騰しちゃう前にね」


「はい!  」


ちょっと言い回しを不思議に思いながら階段を降りた。




「……君なら、なぁんにもしなくても皆が構いたくなるから大丈夫だよ♪  」


そんな意味深なことを言われているなんてことも知らずに。

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